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真実のYACCOのレビュー・感想・評価

真実(2019年製作の映画)
4.0
以前、是枝監督とジュリエット・ビノシュの講演会に行ったことがあった。
ゴダール映画についてや、映画「ショコラ」で共演したジョニー・デップについてなど話してくれたことを覚えている。
その講演会の最後に、是枝監督の映画「奇跡」の予告編が流れたので、2011年頃だったのだろう。
是枝さんのインタビュー記事を読んでいて、2011年にジュリエット・ビノシュから「一緒に映画を作る冒険をしないか」と提案頂いたとあったので、あの頃にそういった話があったのかもしれない。

是枝監督の映画において、家族そして母というモティーフはとても重要らしく、今作もカトリーヌ・ドヌーブ演じる国民的大女優でもある母が登場する。そして、そんな母に屈折した思いを抱えながらも振り回される娘リュミールにジュリエット・ビノシュ。その夫であるハンクにイーサン・ホークというそうそうたる役者が揃っているものの、この映画で描かれるのはやはりある家族の日常で、舞台や場所がどこであり、誰が演じても是枝監督の映画の世界観はそのままにそこにあった。

この映画の主人公は、カトリーヌ・ドヌーブ演じる、国民的女優でありこの家族の母であるファビエンヌである。
ファビエンヌには夭折した姉妹(彼女も女優だった)がいること、恋多き女性であること、国民的大女優であること等、まるでカトリーヌ・ドヌーブ自身を投影したとしか思えない。
カトリーヌ・ドヌーブは、どうしたってその美貌(特に若いころの美しさ)が注目されるが、彼女自身は決して平たんとは言えない半生を歩みながらも、女優として光を浴びてきた人だと私は思っている。今作のファビエンヌはそんなカトリーヌ・ドヌーブ自身のように見え、フィクションだと思いながらもついつい二人を重ね合わせてみてしまう自分がいた。
そして、ジュリエット・ビノシュ。母ファビエンヌに複雑で屈折した感情を持ちながら振り回される娘役。自然体で良かった。反発しあう仲なのに、時折似た者同士になるところ、あれだけ言いたいことがいえるのもある意味親子だからなのだ。ここにも普遍的な親子の姿があった。

今作について是枝監督は「筆記具を変える」感覚で、「書くのは自分」だと何かのインタビューで答えていた。実際に映画を見ていて、その意味がわかった気がした。(あくまで気がしただけだが…)
また、この映画は「フランス人が撮ったフランス映画のようになっている」とも言われているらしいが、私にはやはり是枝映画に見えた。フランス映画でも、また、邦画でもなく、是枝映画に。

これまでは一年に一本のペースで私たちに映画を見せてくれた是枝監督だが、少し冷却期間を置くと本人がおっしゃっている。
樹木希林さんも亡くなり、色々な意味で一息ついて次に向かう準備期間を経たのちの作品を、また楽しみに待とうと思う。

最後に余談だが、カトリーヌ・ドヌーブやジュリエット・ビノシュのように年齢を重ねていきたいものだと思った。
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