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町田くんの世界ののんのレビュー・感想・評価

町田くんの世界(2019年製作の映画)
4.6
こんなところで唐揚げ棒食ってる場合じゃねえな


「情けは人のためにならず」というのは、「人に情けをかけるのはその人のためにならないからやるべきではない」という意味ではないそうだ。

本来の意味は「情けは人のためではない。善い行いも悪い行いも、全ては自分に返ってくるから。だから情けをかけた分、いつか自分に必ず戻ってくる」ということらしい。


変態級の良い人、町田くんは運動は出来ないし、勉強も出来ない。しかし他人のことを気にかけるその能力だけはずば抜けている。


悪意に満ちた世の中で、町田くんの世界は輝いていて、それはそれば眩しい。ベクトルの方向が間違えていたら完全に『悪の教典』のハスミンになっていたのではないかと思うほど。


その町田くんにいつのまにか振り回される猪原さんを広瀬すずと清野菜名を足して二で割ったような関水渚が演じている。


とにかくツンデレの演技があらゆる実写映画のなかでもトップレベルにキュートで、絶妙に気持ちを伝えるのがど下手くそな町田くんと猪原さんのもどかしいやり取りにほっこりしてしまう。


主役級のキャストががっちりと脇を固めているが、それぞれが映画の場面場面できちんと盛り上がりを作っている。


岩田剛典と高畑充希の植物図鑑コンビも映画のアクセントになっていて、岩ちゃんの顔はいいけど嫌な奴感が半端ない演技がみられる。高畑充希はカホコを思わせるなかなかにぶっ飛んだ役柄を楽しそうに演じている。



脇役で出色の存在感を発揮するのがちょっとニヒルな前田敦子で、クールな役どころなんだけど、見ていてとにかく面白いキャラクター。


町田くんは本当に変わった人だけど、何故か人を惹きつける不思議な魅力があって、それは利己主義的な「自分さえよければいい」という世の中の空気に逆行しているからこそ、より光輝いているのだろうと思う。


ほとんどギャグかと思うような終盤の展開は「いや、そうはならんやろ」と誰もが感じるであろうが、そんなとんでもない展開も含めて全てが愛おしい作品。



いやー、油断してた。2019年の年間ベスト級の超絶怒涛の傑作がこんなところにあったとは。恐るべし石井裕也監督。
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