JoeyOgawa

スマホを落としただけなのにのJoeyOgawaのレビュー・感想・評価

4.3
タイトルしかり、予告編からスマホやSNSに特化した作品だな、って目をつけていて見てみたら、現代性の高い見事なサスペンス/スリラーに仕上がっている!
 

タクシーでのスマホ落とし忘れから発するスマホ/SNS絡みのあらゆるサイバートラブルとアラサーの恋愛、連続猟奇殺人事件が巧妙にミックスしたサスペンス。スマホ、SNSのなりすましやハッキングを巧みに駆使し、主人公のカップルが様々なトラブルにあいつつ、さらにスマホを落とした誠の彼女・麻美には謎の男の魔の手が忍ぶ。

序盤、スマホを落とし忘れる→中のデータから浮気がバレて険悪な人間関係を見せる流れの痴話喧嘩系オフィスラブかと匂わせたがいい意味で裏切られた。わりと早い段階から謎の男の部屋のシーンを挿入したり、連続猟奇殺人事件を捜査する刑事のシーンを挟みスリラー/サスペンスの空気を蔓延わせる。かつ、麻美&誠の恋愛模様やそれぞれのオフィスでの風景など上手くスリラー/サスペンスとオフィス恋愛模様を緩急自在な展開で綴る。
 

中でも随所で挿入される犯人目線のシーンが非常に面白い。やっていることは筒井康隆の小説「俗物図鑑」の出歯亀男や『善き人のためのソナタ』の郵便局員みたいなことで、要はそれのサイバー版である。見ているこっちとしては不振なメールやSNSのメッセージに「あー、騙されちゃて~」と歯がゆい気分になり、それが良い。


ただ、若手警官の過去はちょっと蛇足気味で時々出す彼の「刑事の勘」も説得力に欠ける。一応見せ方としては麻美&誠の被害者サイドからの犯人との間合いが近づくのと警察サイドが犯人を究明するのが同時進行で挟み撃ちみたいな形で進む面白さというのもあるが、そのために警察サイドの動きが若干強引である。

終盤の犯人の格好に『サイコ』のノーマン・ベイツが重なったり、犯人の殺人方法が『アメリカン・サイコ』っぽかったりオマージュもいくつか見られる。
 

偶然近い時期に日本で公開されたパソコン・SNSに特化したサスペンス『search/サーチ』と比べると、サスペンスとしてはオーソドックスな猟奇殺人サスペンスにちょっとサイバー要素がついた感じではある。犯人目線で不穏さは出来ても犯人が誰というのは絞りやすいという点ではほんの少し『search/サーチ』よりも見劣りを感じざるを得ない。それでも『白雪姫殺人事件』よりかは遥かに手応えあるし、ここに来てスマホやSNSを使ったサスペンスの花が開いた、という気はする。スマホを落としただけで起こった現代のヒッチコックとしてはお見事である!
JoeyOgawa

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