螢

キングの螢のレビュー・感想・評価

キング(2019年製作の映画)
3.6
「王に友はいない。いるのは従者と敵だけだ」
王となった男の、逃れられない孤独、不安、動揺、猜疑心、決断の恐怖、感情コントロールの難しさ、空虚感、それらに伴う性質の変容、どんなに不確かで頼りないものでも僅かな慰めに縋らずにはいられない気持ちなど、いろいろな感情を、最初から最後まで丁寧に描いており、よくできていた作品だと思います。

イングランド王となったヘンリー5世(1387-1422)の、即位からフランスとの戦争に勝利するまで(1413-1415)を描いた作品。

父ヘンリー4世との確執により王位継承者から除外されていたハル。彼は気心知れた友人に囲まれて市井で奔放に生きていたけれど、父と後継ぎだった弟の死によって、ヘンリー5世として即位することに。
因縁の敵国フランスや近隣諸侯と争いの絶えなかった父ヘンリー4世とは違い、平和な統治を目指したかったヘンリー5世。
家臣から市井出身と馬鹿にされても、開戦主義者に挑発されても、極力戦争は避けていた。けれど、フランスから暗殺者が放たれたのを機に、とうとう開戦に踏み切るけれど…。

孤独と疑心暗鬼と恐怖に苦しみ、かつての友にすがり、その助力を持って悲惨な戦争を乗り切り、でも結果として失ったものはあまりに大きくて、そして、その戦争のきっかけは実は…。
暴かれてしまったものに、なんて残酷なんだろう、と身震いしてしまいました。王は死ぬまでこういうことから逃れられないんだと思うと本当に寒気が。
そして、唯一の友がせっかく残してくれた言葉を忘れてしまった孤独なヘンリー5世の姿は悲しい。

アメリカ系映画に多い、(当人側から見た)勧善懲悪系歴史スペクタクルかと思いきや、意外や意外、心の機微や変容を丁寧に描いているし、ラストの物悲しさや虚しさは胸に残るしで、個人的にはいいなと思った作品。

歴史スペクタクルの要素も十分で、セットも衣装もお金かけてて壮大だし、展開も早いしで、多くの人にとって、娯楽としてもとても見やすいつくりでもあります。
ただし、ヘンリー5世を演じた主演のティモシー・シャラメがあまりにも線が細くて少年少年してて、王らしさが微妙…。あと、イギリス英語意識してます感…。
そのせいもあって、歴史劇というよりどうもちょっと浮いてファンタジーな感じな仕上がりになってしまっている気がします。
うーん、ヘンリー5世の当時の年齢である20代半ばのイギリス系俳優は誰かいなかったのか…。まあ、二十歳を超えたシャラメも年齢的には範疇内だし、彼だからこその話題性があってのNetflix公開前1週間限定公開なんてイベントごとにもなるんだろうけれども。
螢