JT

ビューティフル・ボーイのJTのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
4.0
救いたくても救えない
逃れたくても逃れられない
家族の愛でさえも太刀打ちができない
父は美しい息子の朽ちていく姿をただ見ていることしかできなかった

2019年44本目: 原題『Beautiful Boy』

ふと手を出したドラッグに次第に蝕まれていく
ティモシー・シャラメ演じる18歳のニック
スティーブ・カレル演じる父親のデヴィッドは息子を見守り支え続けた
これは父と息子の壮絶な8年間を描いた実話に基づくひとつの家族の奮闘記である

最初に強調しておきたいのが今作はお涙頂戴ものでも家族愛万歳なノリの映画でもない
どこまでも重く、辛く、苦しく、痛い映画だ

正直映画としての面白さは大分削られていたが
バラバラの時系列と普通でない映像の魅せ方がドラッグの恐ろしさを引き立てた
そしてキャストの卓越した演技に目が離せない
ティモシーの堕ちていく様子やシラフの時の家族への愛溢れる表情だったり
スティーブ・カレルの父親としての葛藤と苦悩
母親役エイミー・ライアンとモーラ・ティア二ーの
滲み出る優しさと温もりを感じる佇まいだったり
全てが紛れもない愛の結晶でした

ティモシー・シャラメの演技はアカデミーにノミネートされるべきものだったと思う

とても印象に残った描写
"母親から逃げる息子と涙を流し息子を追う母親"
この図は最も心を打たれ最も苦しくもある素晴らしいシーンだった

ドラッグに手を出す要因として苦痛から解放されるためすがるようにして摂取するのが多いケースだがニックの場合は違った
家族に愛され愛していて成績優秀な学生で
軽はずみな気持ちで大麻から手を出してどんどん危険性の高いドラッグを求めるようになってしまったのだ
つまりそれほど簡単にドラッグに手を出せる環境が確立していると言うことであり
ドラッグは個人だけでなく周りの家族を崩壊させる

そしてどれだけ深い愛で溢れた家族であっても愛だけではどうにもならない事態に陥る
ドラッグに染まると自分のことがわからない
家族は救う方法もわからず何をすればいいかわからない
ドラッグを欲しているのは自身ではなく摂取したドラッグによって誘引される
依存してしまえば朽ちるまで負の連鎖
原因も理由も救いの手も明確なものなどなく
出口の見えぬ暗闇をただ闇雲に歩いている
答えがなくても助けられなくても
それでも父親は息子に寄り添った
"すべて"を捧げた愛をもって

生きている上で様々な苦しみがあるが
"手が届く位置にいるのに届かない"ことが最も苦しいことだと感じさせられた



演技だけで言ったら今のところ今年で一番好き。
JT

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