JoeyOgawa

ビューティフル・ボーイのJoeyOgawaのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
4.3
ドラッグ中毒の青年を取り上げながらも、予告編で「アメリカが感動した」というヒューマンドラマ映画の宣伝文句の十八番を久しぶりに聞きヤク中映画特有のキナ臭さが薄いのかなー、と思いきや、ドラッグに堕ちる青年の絶望がやや勝る映画だった。


音楽ライターとして成功を納めた父デヴィッドの息子でどちらかといと優等生なニックがまさかのドラッグ中毒に陥り、これを父ディックの視点ともがき苦しむ息子ニックの視点で描いている。『トレイン・スポッティング』や『スパン』、さらには『ドラッグストア・カウボーイ』といったいわゆるドラッグカルチャーを取り扱った映画は色々あったが、これらの映画とこの映画の最大の違いは主人公を取り巻く環境にある。 

バツイチ、再婚者ではあるがフリーの音楽ライターとして成功しているデヴィッドの家庭は何不自由なく、どちらかと言えば余裕のある家庭。ニックは父親からは溺愛というぐらい愛され、趣味の音楽、サーフィンなども共有し、6つの大学に受かる言わば優等生。住んでるサンフランシスコ郊外も景色も住み心地も悪くない。比較的幸せな生活を送っていたニックの唯一の汚点がドラッグで、どんなに幸福な生活でも薬の悪の魅惑に堕ちるサマが凄まじい。どんなに親に愛されようが、素敵な景色、音楽、家族に包まれた多幸感溢れる生活を送ろうが、麻薬/覚醒剤/大麻にから得たハイ、多幸感への渇望・魅惑には勝てず、ズブズブにドラッグ中毒への沼にハマる。。


『トレイン・スポッティング』や『スパン』はクズな奴らがクズな生活を忘れ、その生活における最大の娯楽・快楽としてドラッグがあったが、『ビューティフル・ボーイ』の場合はその必要が全くないはずの比較的幸福な少年が陥ったドラッグ地獄。彼の暮らしが決して悪くないだけにドラッグに堕ちる地獄の描写との落差が激しい。誰でもやってる、簡単にドラッグが手に入るが故のドラッグ地獄。それも、父デヴィッドも全くやってなかったわけじゃない、というのもミソでもある。

 

父デヴィッドが音楽ライターなだけあって、ニルヴァーナやニール・ヤングなどの音楽がかかったり、ポスターやTシャツなどからも90年代カルチャーを楽しめる作品でもある。『キャプテン・マーベル』に続きここでも出てくる90年代のロックのアイコン、ニルヴァーナ。設定時代は2000年前後だろうが、90年代後半のアメリカらしさもある。


父デヴィッドの視点が7割ぐらいになるので、息子ニックがドラッグ中毒になるきっかけや過程がわからず、そこの細かさには欠け、故に絶望感が薄い。しかしながら、優等生がドラッグ中毒というのはありそうでなかったやや新し目のドラッグ青春映画と言えよう。
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