マリリン

ビューティフル・ボーイのマリリンのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
3.8
【ドラッグ中毒の息子と父親の繊細な関係】
この映画には愛がたくさん溢れている。でも、上手く機能していない様子がとてもよく描かれている。
現在の映画界で最も注目されている若手のティモシー・シャラメが今回演じるのは、成績優秀、スポーツ万能の「自慢の息子」ニック。いつしか父親に対して「自慢の息子」を演じるようになり、その反動として次々とドラッグに手を出していく。父親デヴィッドを中心に、再婚した妻や彼らの子供たちからも献身的に支えられ、薬物更生施設に入所したり、大学に行ったりと自ら能動的に治療と回復に励むが、再び薬物に手が伸びてしまう。
この映画の良い所は、父親デヴィッドと息子ニックの両方の目線から物事が見えるようになっている。デヴィッドは息子が心配でたまらないし、ニックが調子良さそうに見えてもまたやっているんじゃないかと常に疑いながらに息子を見てしまうという苦痛さ、「自分が育てたのに、この子は誰だ?と思う」という素直な気持ち…最後のデヴィッドの決断は博打だけれども、理解できる。
一方、ニックも「自慢の息子」ではなく、惨めで優秀ではない自分をドラッグを通じてでしか家族に見せることができない。大好きな父親だけれども、どこかで彼を恨んでいるようにも思える。ドラッグをはじめ、あらゆる依存症は、やっぱり本当の問題から逃れるための手段でしかない。逃れ続けていると、いつしか本当の問題が何なのかも分からなくなり、結果その逃避が死へと繋がることもある。優しく愛嬌も良く非の打ち所がないニックと、父親や社会から逃れたいと思うニックという二面性をシャラメはよく体現している。今の映画界の中で、ティモシー・シャラメに苦悩する青年を演じさせたら右に出るものはいないと思う。もちろんルックスが良いから画面的には映えるっていうものあるけれど、彼が画面から去った後にも残り香がふんわりと感じとれてしまうから、どんどんニックが心配になっていく。
アメリカの若年層の死因の第一位が薬物だとは。悲しいとしか言いようがない。
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