なべ

The Witch/魔女のなべのレビュー・感想・評価

The Witch/魔女(2018年製作の映画)
3.5
 事件が起こるまでの前半が好き。コントラストの低い未明のプロローグの絵なんて最高だ。言葉少なに進められる逃亡劇の素晴らしいこと。詳細はわからなくても、とんでもないのが逃げたってことだけはわかる。
 アクションが始まるまでが退屈って人もいるらしいが、どこが退屈なんだ? 来るべきXデーまでのつましい暮らしと忍び寄る影のさじ加減が絶妙なのに。
 アルツハイマーの母、パーキンソン病(?)の父、芳しくない牧場経営(狂牛病の頃か)と、金が必要な理由が無理なく提示され、オーディション番組への出演に至る流れがスムーズ。番組への出場が組織に知られ、暗殺部隊がやってくる。うーん、よく練られてるわ。
 そしてファーストバトル。ジョン・ウィックも真っ青な秒速アクション。それをひ弱そうな女子高生が返り血を浴びながら平然とやってのけるチグハグさがカッコいい。顔色ひとつ変えずに、男たちを処理していく手際が気持ちいい。それまでの家族や友人や街の人々との表情が自然で健やかだったから、この無表情さが際立つんだよね。
 が、ぼくが楽しめたのはここまで。ここからあとは急に薄っぺらくなる。アクションのためのアクションのようで少年マンガ的。急に情緒や物語がいらなくなったような掌返しに戸惑う。ディヴァイン・フューリーもそうだったが、散々もったいつけておいて、浅いまま終わるってのは気に入らない。最初からそうなら全然構わないが、ここまでが丁寧な描写だっただけに残念でならない。
 ジャユンが常にニヤついてるのもいや。敵の暗殺者とは比べようもないくらいの化け物なら、そんな人を小バカにしたような薄ら笑いは浮かべないはずだ。仮に殺戮に快感を見出しているのだとすると、もっとゾクッとくるような微笑なのでは? 上から目線は弱い奴の眼差しだから。ジャユンには最初のバトルの時のように無表情なまま(何をどこまで考えてるのかわからないような)バイオレンスを見せて欲しかった。
 ジャユンはどこかで見たことあるなと思ったら、あー!梨泰院クラスのソシオパスのヒロインか。うん、ドラマの時の3倍も4倍も演技が上手くなってた。ニヤニヤ笑い以外、彼女の演技にグイグイ引き込まれたし、すっかり騙されたわ。薄味の顔なのに、喜怒哀楽の表情がとても印象的。いいねえ。
 この出来だと続編はないかなと思っていたが、Filmarksではなかなか好評なようだ。続編が公開されたら一応観に行くが、ストーリーはちゃんと練ってほしいなあ。それでなくてもサイキック要素を持て余してるのに。まあ、あんまりハードルを上げないでおこう。
なべ

なべ