ラグナロクの足音

愛がなんだのラグナロクの足音のレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
4.1
まず、人が人を好きになるのはどうやら肯定的な理由だけではないようだ。彼がかっこいいとか彼の性格がいいとかじゃなくて、彼は酒癖が悪いとか、彼には浮気癖があるとか。そういった問題があるからこそ彼を好きになってしまうという。。そんな因果関係がチグハグな恋愛趣向をもった女性が、この世界には一定数いる(らしい)。この映画の主人公テルコもそのひとり。彼氏の良い部分を好きになる一方で、男として最低な部分には嫌気もしているが、そのマイナスな面そのものにも徐々に惹かれていってしまう。しかしそうなると、それこそ永遠に彼を嫌いになることはできないのかもしれない。なるほど、この気持ちは確かに名前がつけらない。 単純な好きとも愛しているとも違う。そんな特殊な感情に翻弄されるテルコの姿はとても惨かった。そもそも人間はパートナーに対してあまりに没入してしまうと、ラストの台詞"もはや相手になりたい(=同化したい)"という狂気じみた発想に本当に行き着いてしまう存在なのだろうか。見返りをもとめない性愛ほどグロテスクなものはないのではないか。しかし監督いわく、この台詞は実際の女性の発言を基にしているらしいので、案外こういうタイプの方は社会にありふれてるのかもしれない。。自分が唯一ホッとできたこの作品の救いは、彼女のまわりにいるひとたちの恋愛に対する考え方だ。これまたそれぞれ個性的で考え方がまったく異なるから面白く、部分的にだが感情移入できる人物もいた。結局この社会で徹頭徹尾自分と同じ系統の相手を探すのって不可能なのかもしれないし、そうゆうひとなんかいるわけないと最初から割り切るべきなのかもしれない。すると結婚なんて所詮運ゲームなのかもしれない。恋愛に関する教科書的な作品というよりは、むしろ恋愛についての図鑑の中の1ページのような映画だった。終盤、彼の全てを受け入れ、恋愛関係でいることを諦めたテルコが象の飼育をするシーン。そのどうしようもないくらい残酷で儚い行動に、思わず愛がなんだと叫びたくなった。
しかし岸井ゆきの、、恐るべし。この作品は彼女がいないと成立しなかった。役者の配役を間違えていたら、ただのホラーになっていた気もする。彼女が演じることで、グロテスクな狂気も爽やかなユーモアに昇華できた。コントな演出もあるとはいえコメディ方面にも走りすぎず。また小説の端から端までカメラをはしらせたかのような、原作に則った撮影も素晴らしい。土鍋のうどんからのアルミホイルに包まれたインスタントうどんといった、キャラクターたちの感情の動きを示すアイテム演出も多数忍ばせてある点も思わず唸った。全体的に映画としての完成度が軒並み高かったように思う。やはり今泉先生、さすがです。土下座

p.s. 樹木希林さんも、この種の恋煩いに陥っていたのかなぁ。
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