そーいちろー

愛がなんだのそーいちろーのレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
3.6
今泉力哉らしい都会に生きる若者の、どうしようもない恋愛映画。ありがちなダメンズものと思わせて、主従関係に近い不思議な男女関係や、母娘の複雑な関係性、恋愛の不可能性も鮮やかに描き出した良作。ラストは今泉力哉らしい恋愛中の人間の酩酊感を表現した超現実的展開で終わるところは、なんとなくメジャー感を避けてしまう感じで、ある意味で安心する感じ。日本のホン・サンスというか、定式美に近い恋愛映画を撮り続ける今泉力哉が、いよいよ本格的に認められた感じのする反響。

2023年4月8日(土)新文芸坐にて三回目鑑賞。

ほぼ初見の感想と変わるところはなく、むしろ観直せば観直すほど、このミニマルな構造と、そこから生じる物悲しさ、この当時に描かれるべきだった本作の意味合い含め、本作が当時、リアルな10代から20代の支持を得た意味合いも含め、この後10年ぐらいの日本映画の方向性を決める意味でも「クラシック」と呼ぶべき作品である、という思いを強くした。

恋愛というものが、どんなに取り繕ったとしてもそれは自己満足でしかなく、その自己満足を幾らかでも相手に対し何らかの施しであればいい、というような諦観に満ちた前向きな絶望感が本作には満ちていて、恋愛以外においては全てが適当なテル子や、それなりに今の自分に満足しつつも、不全感を抱えているマモちゃん含め、この登場人物はそこら辺にいそうであるがゆえに、本作は意味あるものになったんだろう。

そして、三回目で気付かされたのは、二人の苗字が「山田」と「田中」という、日本においてはありふれた苗字である点だ。どこにでもいる、ありふれた人間たちも、ことに恋愛という磁場に巻き込まれていくと、どこにでもいながらも固有種のように独自の魅力が発揮され、それが沢山の人々を巻き込むこととなった。

愛がなんだ、はおそらく日本での現象ほど世界的な価値は認められてはいないだろうが、描かれているものの普遍性を考えると、もっと認められて然るべき作品、作家だろう。
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