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愛がなんだのmのレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
4.8
原作と監督以外の脚本家の存在によって映画の骨組みがしっかりと構築された事で、これまでの今泉映画という枠組みを超える傑作になったと思う。


恋愛映画として素晴らしかったのが単なる『振り回される側』と『振り回す側』の一方通行の関係ではなく、『振り回される側』にとっては実は振り回される事もある種の喜び・愉しさでもある事(そうしている限りは相手と繋がっているし)、一方で『振り回す側』は振り回される側のそんな様を気付いてはいないけど自分のペースを崩されてちょっと嫌だなと思う時もあったり、そんな彼ら自身もまた別の誰かの『振り回される側』で寂しさを抱えてもいる1人の人間である事が描かれている所だった。
そうした恋愛に七転八倒する人間を単純なキャラとして描かない事が、この映画を豊かにしている。

俺はどうやら残念ながら『振り回される側』のようで、『振り回される側』であるテルコと仲原君の言動や感情に思い当たる節があり過ぎていちいち痛い痛い!となってしまった。うわ実際こういう事やった事あるわ、とか・・・



そして何より役者が素晴らしかった!
「太陽は待ってくれない」で初めて目にして以来何故だか気になっていた岸井ゆきのはハマり役で、報われない恋愛にどっぷり依存している女の子のグズグズっぷりを見事に体現している。

彼女が惚れるマモちゃんを成田凌が絶妙な塩梅で演じていて印象深い。それにしっかり魅力的で、これは確かに惚れるよね。
マモちゃんがよくある単なる女たらしで自堕落的な『クズ男』ではなく、現代的な鈍感でちょっと狡くてクズな部分も少しあるくらいのごく普通の若者である事が良かった。

そんな2人の関係性を客観的に見てツッコミつつも、そう言う自分も『振り回す側』である葉子役の深川麻衣は小悪魔性を存分に発揮していて、今泉監督の前作「パンとバスと2度目のハツコイ」に続き今泉映画の新ミューズと言える相性の良さを魅せている。

葉子に『振り回される側』である事をある意味誇りに思っている感のある(そうしていれば少なくとも彼女と繋がってはいられるからね、分かるよ・・)仲原君を若葉竜也が絶妙に不器用で絶妙にほんのり気持ち悪く、そして絶妙に誠実な人間として演じていて、素晴らしい。
彼が初登場時に葉子のベッドで一緒に寝ている時、セックス後というより添い寝させてもらってるという感じ(そして起きて窓辺で電話してる彼女を無言で撮る)なのがまた細かくツラい。

江口のりこ、筒井真理子、片岡礼子という大人の女性達の存在も効いているし、彼女達が自立した大人の女性として魅力的に描かれているのも良かった(ただ片岡礼子に『イイ感じの事』をズバリ言わせるのは勿体無い)。





ラップはせっかくやるならもっとしっかりやっても良かったのでは、とも思う。子供や分身の使い方は「パンとバスと2度目のハツコイ」に続き意図があざと過ぎる気が・・



テルコの最終的な選択と仲原君のラストには『好き』という曖昧な感情に白黒付けない事への肯定感があって心に沁みる。その一方で自分の痛い所を突かれてしまった感もあって、また痛ッとなった。
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