てっぺい

愛がなんだのてっぺいのレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
3.5
【終着のない執着愛】
その人になりたい、とまで言ってしまう主人公の、執着にも似た愛の形。様々なレベルの“執着”が描かれながら、“幸せになりたい”事への在り方が問われる一本。
◆概要
第31回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。原作は直木賞作家・「八日目の蝉」の角田光代の同名恋愛小説。監督は「パンとバスと2度目のハツコイ」の今泉力哉。出演は「おじいちゃん、死んじゃったって。」の岸井ゆきの、「スマホを落としただけなのに」の成田凌ら。
◆ストーリー
28歳のOL山田テルコは、マモルに一目ぼれした5カ月前から、生活がマモル中心。しかし、マモルにとってテルコは単なる都合のいい女でしかなかった。ある日を境にマモルからの連絡が突然途絶えてしまう。
◆感想
歪んでもない、いびつでもない、まっすぐという訳でもない、でも揺るぎない、“執着愛”とでもいうのだろうか。誰しもが場合によっては陥るかもしれない、心の迷いや葛藤を具現化したような映画だった。
はじめはマモちゃんが好きで好きでたまらない女子の、微笑ましいあるある。会社で居残りコーヒーしながら電話を待つ姿や、シャワー中でも電話を取ってすぐに彼の元へ出かける姿が健気中の健気。
同じ立場の仲原の変化や、過去の自分からの問いかけに揺れながら、次第に離れていくマモちゃんをそれでも思い続けるテルコが切なくて仕方ない。
テルコが関わっていく人物像も様々。マモちゃんは尽くすテルコを超絶雑に扱ってしまうけど、好きな人の前では無力。マモちゃんが憧れるすみれ(「アッタマきた!パスタ作る」には吹いた笑)。テルコと限りなく環境が近い仲原も、テルコほどの執着に至る前に離れる決断をする(「幸せになりたいっすね」は名言)。ヨウコも家庭環境のせいもありマモちゃん的な要素があるものの、次第に仲原に目を向けてあげられるように。それぞれ恋愛への依存度がバラバラなだけに、色んな人が共感できて、色んな人が共感できない映画になっていると思う。
その中で、テルコの執着度はもうマックス。“マモちゃんになりたい”と、好きな人自身になりたいとまで言ってしまうテルコの、愛であり執着でもあり、究極の心理状態。それが愛じゃないなら愛がなんだ、タイトルの通り、私はこの“執着愛”とともに生きていく。マモちゃんから“自由”と言われたテルコの1つの決心にも似た愛の形が描かれるラストは、末路なのか、一つのあるべき形なのか、もう分からなくなる。
とここまで原作の力の話に加えて、製作陣の工夫が随所に見られるのも面白い。ズームアウトが顕著で、テルコが過去の自分と出会うお風呂や鏡のシーンでは、ハッとさせられるというか、見ている映画の次元がふっと移るような、効果的な映像表現になっていたと思う。ラップで不満を刻んだり、そこでまた別の自分と出会ったり、同じく象の皮膚からのズームアウトで“マモちゃんになった”テルコが登場したり、今泉監督の別の作品を見たくなるアイデアがたくさんあった。
とても見応えのある作品でした!
https://www.instagram.com/teppei_movie/
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