愛がなんだのbadhabitのネタバレレビュー・内容・結末

幸せになりたいっすねぇ。



愛がなんだを観てきた。
序盤、成田凌演じる田中守に個人的に全く魅力を感じなかったせいでテルコの行動に少しも共感出来ずにいた。
けれど、衣装ケースの靴下のシーンからあの二人の埋め難い絶望的な価値観の隔たりを感じてしまって、そこから一気に惹き込まれた。
テルコの、自己肯定感が低い人特有の言動がすごくリアルだった。
「私には」気を遣わなくていいから、遠慮しなくてもいいから、だから私のことはもっと有難がって、特別扱いして、テルコの意思に反して、そう言われているように守は感じたんじゃないだろうか。自分の存在価値が相手を好きなことしかないから、相手に尽くすことでしか自分を肯定出来ない気持ちが痛いほどよくわかった。

わたしの中にもテルコが存在していた時期があった。
けれど、マモちゃんも、葉子も仲原もスミレさんも同時にわたしの中に存在している。自分に好意を寄せてくれた相手を疎ましく思ったり、雑に扱ってしまったこともある。
全員の気持ちが少しずつわかってしまうから、同じようにもどかしくて、どうしようもなくて、愛がなんだってんだよ、と思った。

テルコは思い込みが激しくて、暴走しがちだけど、友達想いで仲原の為に怒れたり(半分は自己投影だったとしても)、好きな人の好きな人に対して個人的な感情抜きで接することが出来たり、根っこの部分がすごく人間的にまともな女性だ。だからこんなに多くの人が、この映画を自分の物語だと、身近に感じるんだろう。

仲原の、絞り出すような切実な「幸せになりたいっすねぇ」が苦しくて涙が出た。引き際を自分で見極められて偉いな、と素直に思えた。ただ、仲原の気持ちは永遠に一方通行で立て板に水だったわけではなかったことがわかって、少しだけ報われたように思った。それだけが救いだった。

ラストシーンがすごく印象に残った。
田中守という、山田テルコに対して少しも誠実に振る舞うつもりのない男の、ただの思いつきで放った出鱈目な夢を、テルコはずっと忘れずにいた。
それを叶えることで、自分と守が同一の存在になったように、少しだけ感じられたんだろうな。

テルコの突然のフリースタイルには笑ってしまった。