シャトニーニ

ランボー ラスト・ブラッドのシャトニーニのレビュー・感想・評価

4.8
〜男の教科書、最終章〜

ベトナム帰りのキリングマシン、ジョン・ランボーの半世紀にかけた闘い、遂に集大成へ。

「ランボー 最後の闘い」から10年、半隠居の身で牧場で家族となった者たちと幸せに過ごすジョンだったが、養子である娘がその父を探しに行ったメキシコにて失踪。ジョンは彼女を追い、やがて人身売買カルテルとの闘いに巻き込まれる。
故郷アリゾナの乾いた暗闇のなか、血より濃い絆、暴力より黒い執念が、かつてグリーンベレーだった男の本能を呼び起こす。


日比谷TOHOで最終日に見れて幸運でした。ほんともうギリギリだった。コロナと闘う人々にとって映画館などの娯楽も、残していかなきゃと思うこの頃、素晴らしい作品を見られました。

ランボー作品にしては異例のホームグラウンドである故郷から中米を舞台に、今まで描写が少ししかなかったランボーの実家での私生活、家族との触れ合いが描かれていてほっとする序盤。「ランボー3」「ランボー 最後の闘い」の異国で現地民や子どもたち触れ合う優しいランボーもありましたが、本作では普通のおじさん通り越して田舎のおじいちゃんでした。時にボランティアをし、お馬さんをブラッシングする可愛い爺さん、お盆というタイミングだから丁度いい。
元上司トラウトマン大佐の劇中での年齢より上になってしまった姿から、老後は穏やかに悠々自適であってほしい。
かつての闘争本能とトラウマは、自ら作った長い地下洞へ閉じ込め、長きに渡る戦慄の疲れを癒やしていました。ドアーズを聴きながら。

しかしその日常は突如として奪われ、かつて最強の戦士として研ぎ澄ました反射神経と衝動が蘇る。こんなおじいちゃんやだ、カッコイイ.....!ハンドメイドナイフにハンドメイド矢じり、ハンドメイド罠にハンドメイド爆薬、etc....
「イコライザー」を思い出させる家庭グッズでの罠作り、おおきなお友達の夏休みの自由研究にもピッタリな本作。殺す事がアイデンティティ、映画のジャンルが違ったらこれ、完全なホラー殺人鬼ですよ本当に。軍と戦争が生み出した哀しき承認欲求。

養子である孫(年齢的に)娘のガブリエラちゃん可愛い。おそらくラテンな血が入っている女優さんですが、この子をひどい目に合わそうとする人身売買本気で許さねぇ、ナイフで、素手で、やっちまえランボー!と感情移入が凄かったです。老人力のかいしんのいちげきが悪いやつらをオーバーキルするたび目から熱い涙出た!

終盤、自宅を風雲たけし城みたいに改造してカルテルを迎え撃つランボー。緑山スタジオ(SASUKE収録地)の地獄版みてぇだ
準備する所は「ホームアローン」のケビンぽく、殺意レベルは「SAW」シリーズのトラップのように殺る気MAX。
さすが戦車やヘリ乗り回し上裸で戦ってた頃と比べて筋肉は落ちたけれど戦士としての本能は一切衰えちゃいない!かつてナムで自身や戦友たちを傷つけ命さえ奪ったトラップをシリーズとおして強敵(とも)として自分のものにしてしまっているッ!なんだこの夢想転生
もとはといえば北ベトナム側視点だと自衛の為のベトナム戦争、彼らは手段を選ばなかっただけ。だからランボーにも土地と全知力を活かしたトラップは最大の防御にして最強の武器となる。
ジョンが使う西部劇みたいなヴィンテージ銃器もかつて合衆国を守るためのもの(コルトガバメント1911、ガーランドやウィンチェスターライフル、ソードオフショットガン)ばかり持っていたのは愛国心と殺す敵に対する敬意からくるものだろうか。

パンフによると一作目の無印「ランボー」に近い作りで、“いわれのない暴力を受けた帰還兵ランボーが罠を張って待ち受ける”というストーリーの構造をなぞる形になっております。専守防衛、ランボーの歴史は繰り返す。
無印といえば原題の「〜ラスト・ブラッド」も一作目の原題「first blood(ランボーは邦題」と対になっていてその作風に近いものになっている。
そもそも日本で邦題ランボーになった人気から原題がRAMBOになったのは有名な話。密林や砂漠などの戦地で活躍するコマンドの代名詞がランボーになったのもシリーズ最大の功罪といえましょうか。

冒頭の12分のレスキューのシークエンス、とても好きな場面です。今までのシリーズとは違い違和感があったのか本国アメリカで削られたとか。ランボーにとって「家族を守る」幻視として必要だったと思うし、後の行動にも大きく関わってくるので必要だと。
今までのシリーズでは仲間を失った喪失感と拷問を受けたフラッシュバックが原動力だったのに対し、本作では家族を守りたい心と戦士として培った黒い本能とが共存しているのが、悩む所であるし一作目に次いで人間的だなと。前作のラストで長い放浪からの帰還を果たしたと思えば、ホームでも彼の中の戦いは続くというアンサー。

音楽といえば、ドアーズの「five to one」、もうそれに尽きる。
ランボーをランボーとして刻む唯一無二の音楽だと思うし、若くして亡くなったジム・モリソンも彼らの時代の反抗のイコンでヒーローだったから、老いたジョンがこれを聴きながら、の場面は最高に燃ゆる。

正直、名前で選ばれたんじゃねーかと思う監督のエイドリアーン!に感謝!かなりハードで重厚な、前作を凌ぐバイオレンス描写と湧き上がる感情が、ジョン・ランボーという生き方を深く掘り下げている。

一人の男が最後にたどりついた場所、あなたはどう感じましたか?
たぶんこの夏に限らず、一生の宿題になりました。ランボーの夏休み。