茜

永遠に僕のものの茜のネタバレレビュー・内容・結末

永遠に僕のもの(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

青山シアターのレビュアーオンライン試写会に当選して、ずっと気になっていた本作を鑑賞する機会を頂けました。
地方の田舎に住んでいても、こうしてオンラインで試写会に参加出来るなんて、凄い時代だなぁ本当に。

アルゼンチンで最も有名な連続殺人犯の少年、カルロス・エディアルド・ロブレド・プッチをモデルにした本作。
気になって少し調べてみたところ、確かにカルロスはとても綺麗な顔の美少年で、当時世の中に与えた衝撃は相当なものだっただろうと思う。
ただし彼の犯歴は映画内で描かれているよりずっとおぞましく、殺人11人、殺人未遂1人、強盗17人の他にレイプ・性的虐待・誘拐まで犯していて、実際はこんなに美しく描かれるものではない。

でも私がこの映画を観て思ったのは、本作はシリアルキラーとしての彼の物語というよりも、彼の歪んだ愛を描いた作品だという事。
美しく線の細いカルロスと対照的に、彼の相棒であるラモンはどこかワイルドで男臭い少年。
強盗や殺人を共に犯す中で、カルロスの行動は常に統制がなく幼い印象を与えるけど、それも子供が親にアピールするように、ラモンの気を惹きたいが故の行為のように思えた。
実際に彼の中身は見た目以上に幼くて、子供が遊ぶように物を盗み、おもちゃのように拳銃を撃ち、まるで腕にとまった蚊を叩くように気軽に人を殺す。
そのせいか彼の犯す窃盗や殺人の数々はどこか重みがなく、飄々とした表情と仕草で犯罪をやってのけるから、そこが逆に恐ろしい。

本作はとにかく映像が綺麗で、それを更に惹き立てるような音楽の使い方が凄く上手いと思ったんですが、予告編でも流れるThe Animalsの「La casa del naciente」という曲のかかるシーンが特に良かった。
この曲が流れるシーンで、カルロスはラモンを手に入れたくて、でも手に入れることが出来なくて、だから共に死のうとしたように見えた。
でも自分だけ生き残って、ラモンは死んでしまい、カルロスはラモンを自分のものにする事が出来なかった。
ラモンを手に入れる事が出来ず、結局残ったものはシリアルキラーとして生きていくしかない自分という存在のみ。
そんなカルロスの人間としての哀しさが「La casa del naciente」という曲の効果でより惹き立っている気がしました。

自分は自由で何でも出来る特別な存在だと思い込んでいた「天使」が、唯一手に入れる事が出来なかった愛する人。
自分の感情をあからさまに表に出さないカルロスが、最後に電車の中で涙を流すシーンと、誰もいないラモンの家で一人踊るシーンに、シリアルキラーと言われる少年の孤独が垣間見えて切なかった。
茜