てっぺい

THE GUILTY/ギルティのてっぺいのレビュー・感想・評価

THE GUILTY/ギルティ(2018年製作の映画)
4.0
【観客が映像を作る映画】
電話の音声だけが手がかりで進む誘拐事件、映像は全て緊急通報指令室の中。その緊迫感はもちろん、気づけば自分が頭の中で映像を作りながら見ている、ありそうでなかった全く新しい映画体験!

第34回サンダンス映画祭観客賞受賞のデンマーク映画。監督・脚本はグスタフ・モーラー。ジェイク・ジレンホール主演によるアメリカでのリメイクが報じられている。

元警察官で緊急通報指令室のオペレーターのアスガーは、今まさに誘拐されているという女性からの通報を受ける。車の発進音や女性の声、そして犯人の息づかいなど、電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに、アスガーは事件に対処しなければならず……。

頭フル稼働の90分。声と音だけの手がかりで進んで行く誘拐事件と、解決策を探る主人公にどっぷり感情移入する。おまけに意外な方向へ進む誘拐事件と主人公の次第に明らかにされていく素性も、この映画の面白さ・緊張感にプラスになっている一筋縄ではない展開。
シチュエーション・サスペンスというべきものなのか、「クワイエット・プレイス」や「サーチ」など最近立て続けに発表される、“ある条件下”で展開する異色のサスペンスもの。これもその類に属するものながら、映像は100パーセント緊急通報指令室の中。音と声だけでいつのまにか自分自身が映像を頭の中に描きながら見ている。ある意味映像を自分で作る映画と言えるのかもしれない。低予算映画としてくくるのが申し訳ないくらい、ありそうでなかった素晴らしく画期的な映画だと思う。
◆ネタバレ◆
印象的だったのが、イーベンが息子オリバーの“ヘビ”を解放したと言うシーン。アスガーは元警察官という正義感から指令室という今の自分の職務外に突っ切ってしまい、結果この事件を複雑化し裏目に出させてしまう。さらに“明日の法廷”という、絶対に自分に不利な出来事を作りたくないタイミング。(冒頭での無表情の涙もこの法廷ごとを憂いての描写だったのだろうけど、この役者さんの実力をいきなり目の当たりにするすごいシーンでした)このシーンが、誘拐事件の軸を面舵いっぱい振り切った転換シーンであり、かつアスガーの複雑な背景から抱える思いを一気にぶち壊す、この映画の大きな起点であり、グッと引き込まれる映画の山になっていたと思う。
また同時に、そんな崩落していく思いのアスガーが指令室を破壊し、赤ランプの色のみに表情が染まるのも、落ちに落ちたオリバーの状況と思いの映画としての豊かな映像表現。監督の揺るぎない演出力が光るシーンでした。
90分とコンパクトながらギュッと要素が詰まった作品。しかも映像を自分の脳が作り出す新しい映画体験。また映画の新たな魅力に気づかせてくれた体験になりました。
てっぺい

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