湯呑

CLIMAX クライマックスの湯呑のレビュー・感想・評価

CLIMAX クライマックス(2018年製作の映画)
4.4
本作のサントラを見るとAphex TwinやDaft Pank、懐かしいところではGiorgio MoroderやGary Numan、Soft Cellなんて名前が並んでいる。本作の舞台は1996年なので、楽曲については、その当時流行していたフレンチ・ハウスが採用されている様だが、それ以外にギャスパー・ノエ自身が好きな曲も混じっているのだろう。
音楽だけに限った話ではない。映画の冒頭、ダンサー達のインタビュー映像が流れるTVの横には、様々な本やDVDが積み重ねられているが、これは全て監督自身の私物らしい。これまで問題作を発表し続けてきたギャスパー・ノエは、どの様な作品から影響を受けたのか。非常に興味をそそられるものの、横文字に弱い私には具体的にどんな作品が並べてあるのか、画面を観ただけでは判別するのが難しい。困ったなあ、と思っていたら、ありがたい事にとあるブログでそのほとんどをリストアップしてくれていた。そこから本作にインスピレーションを与えたと思われる作品をピックアップしてみよう。書籍では『善悪の彼岸(ニーチェ)』『日常生活における精神病理(フロイト)』『眼球譚(バタイユ)』『変身(カフカ)』といったあたり。DVDでは『ポゼッション(アンジェイ・ズラウスキー)』『ソドムの市(ピエル・パオロ・パゾリーニ))』『アンダルシアの犬(ルイス・ブニュエル)』『サスペリア(ダリオ・アルジェント)』『ゾンビ(ジョージ・A・ロメロ)』などである。
このラインナップから本作の概要をまとめてみれば、閉鎖空間を舞台にしたサバイバル・ホラーのフォーマットに、ダンスや薬物を媒介とした自我の消失、禁忌からの解放、暴力や性に対する潜在的欲望の発露を、ある面では病理として、ある面では超越性への足掛かりとして捉える、といったテーマを盛り込んでいるのだろう…何だか身も蓋もない話になってしまったが、こうした他愛もないと言えば他愛もないテーマを、露悪的で装飾過多な演出でデコレートし、フリーキーな夢幻的世界を作り上げる事こそが、ギャスパー・ノエにとっての映画表現なのである。その稚気溢れる語り口は、彼が敬愛してやまないルイス・ブニュエルに近いのかもしれない。正直、カメラを動かし過ぎて何が何だかよくわかんねえよ、というシーンもあるにはあったが、とにかく唯一無二の体験が味わえる97分間ではあった。
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