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CLIMAX クライマックスのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

CLIMAX クライマックス(2018年製作の映画)
4.6
『これぞまさに、劇薬! あなたをインナートリップへと拉致るギャスパーノエからのサイケメディア(ドラッグ)』

エンターザボイドでゴーグル無しのドラッグのVR体験に挑戦し、LOVE 3Dでは飛び出す射精を観客に放つなど何かと炎上続きな問題児ギャスパーノエが、「俺の作品を罵ってきた君たちへ、今度はコレ(CLIMAX)を試してみてくれ」とまるで新手のドラッグを勧めるかの如く、この劇薬が世に放たれた。

ギャスパーノエはドラッグな感覚を主観的に魅せる幻覚チックな作風で知られているが、CLIMAXでは登場人物が見るビジョンを観客には一切見せない。ただ発狂して踊り狂うシークエンスの連続ながら、これが観てみるとドンドン体調が悪化していく。次々と起きてほしくない修羅場が目の前を通り過ぎ、「もう勘弁してくれ」と叫びたくなるもギャスパーノエのカラクリ魔宮から誰ひとり逃げることを許されない。 97分間がそんな地獄の様に感じてくるも、本作の持つ異様な中毒性に魅せられドラッグさながら何度でもまた見返したくなるのだ。

いわば本作は、ジャンキー達のみが観るドラッグの世界に"溺れた人々"を淡々と考察した作品と言えるだろう。まるで何かに憑依されたかのように、肉体をコントロール出来ず、挙句自分自身が気持ち悪くなり自他構わず、攻撃しまくる。そして恐ろしいのが映画自体、終始エクスタシー達する様に観客を煽りまくるのだ。見たこともないような前衛ダンスシーンでテンションを絶頂まで持っていき、映画の8割がアドリブらしい、即興演出そして非役者のプロダンサーが大量キャスティングされた空間を長回しなるギミックで、修羅場が永遠続く様に感じさせる。終いには、ドラッグに操られ反道徳的な惨劇に走るダンサー、悲鳴が幾ら飛び交おうとも、終始爆音のミュージックが異様な高揚感(カタルシス)へ持っていこうとするのだ。

どこかジェットコースタームービーの様な興奮を漂わせるも、インタビューに始まりアクションと会話劇を完全分離する構成はAVなんかを彷彿とさせる。そんなゴダールもびっくりな映画文法の『脱構築』にギャスパーノエは挑んだのだ。

インタビューパートでは、画面の周りに『サスペリア』『ポゼッション』から『タクシードライバー』など引用元を提示する。更に現役ダンサーによる一問一答インタビューは、まるで本音で語るドキュメンタリー的側面にすら見えてきます。

そして本編で会話劇と切り離されたダンスと惨劇のパートでは、サイレント映画の様にセリフを抜いたとしても、成り立つようなギョッとするショットを積み重ね、画面全体を使ったテロップで警句めいた演出を施す。
終盤には、天地をひっくり返し幽霊屋敷ばりの阿鼻叫喚空間へと変貌させてしまうのだ。

ギャスパーノエは本気で観客に吐き気を誘う閲覧注意映画に仕上げてきたが、それでも高揚と嫌悪の有機反応エクスタシーを体感できる作品は、ここにしかないぞ。
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