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ロケットマンのumisodachiのレビュー・感想・評価

ロケットマン(2019年製作の映画)
4.5
エルトン・ジョンの半生を描く。『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャーが監督を務める。

あらすじは割愛。アルコールやドラッグに溺れた過去を持ち、同性婚を果たして2人の子供を育てているエルトン・ジョンのこれまでの人生を、子供時代から追っていくスタイル。かなり内省的な作品で、エルトンの感覚や内面(トリップしているときを含む)が常にスクリーンに纏わりついているのが特徴。

また、正真正銘のミュージカル作品でもある。物語が動くときには必ずエルトン・ジョンの楽曲が歌われる。それも、エルトンだけではなく様々な登場人物によって。さらに、曲数がとても多い。舞台化したときの演出が自然と頭に浮かぶようになっているし、ほぼ確実に舞台化を視野に入れて作られているのだと思う。曲数が少なくスキルも物足りなかった『ラ・ラ・ランド』なんかと比べると、かなり王道のミュージカル構成。


<以下ネタバレ>











現在の主人公が、俯瞰した立ち位置で子供時代の自分を見つめるところから始まり、ミュージックナンバーの中で時間がシフトしていき、ときに「現在」と「過去」がリンクする……といった構成は、 ほぼ『ボーイ・フロム・オズ』と同じ。同性の恋人との関係の変化が物語の大きな転換点になっているのも一緒。つまり、本作はミュージカルとして特に新しいというわけではない。むしろオーソドックスな方だと思う。

※『ボーイ・フロム・オズ』は2003年にヒュー・ジャックマン主演で初上演されたオーストラリアンミュージカル。実在したシンガー・ソングライターのピーター・アレンの人生を彼の楽曲を用いて描く。日本では坂本昌行主演で過去に3回上演されている。

『ボヘミアン・ラプソディ』みたいにド派手なクライマックスがあるわけではないが、ファンタジックかつオーソドックスかつパーソナルかつ繊細。ひとつひとつの楽曲の使い方も丁寧だし、なによりもミュージカルナンバーのつくりが上質で見惚れてしまう。

後半になるとナンバーが激減という意見を見かけたが、そんなことはないと思う。確かに、華やかなダンスナンバーは前半に集中しているが、大体のシリアスなミュージカルは後半に聴かせるナンバーが固まる。『ウェスト・サイド・ストーリー』だって、2幕はかろうじて『クラプキ警部』があるくらいで、基本暗いし。

親友であるバーニーとの関係を主軸に置いている部分に関しては、もっと強調しても良かったかも。バーニー役のジェイミー・ベルの優しさあふれる個性のおかげでグッとくる落とし方にはなっていたが(『リトル・ダンサー』から、あの優しい目は全く変わっていない)、ぶっちゃけ途中ほとんど出てこない時間帯あったし。いきなりの大成功から堕落までの流れの中で、もう少しバーニーを印象付けてくれたらなお良かった。

対して、両親との関係の描き方は徹底的で容赦がない。父親に会いに行くシーンは本当に可哀想で、私までシクシク泣いてしまった。両親との関りは何度も何度も浮上してきて、本作を貫いているテーマである『I Want Love』の輪郭がどんどん鮮明になっていく。ああ、つらい。

直接的にエルトンを苦しめるクソ男のクソっぷりもたいがいなのだが、すべてのキャストがしっかり時代感があるのも良い。エルトン役のタロン・エジャトンも体型や髪形までしっかり本人に寄せていて、熱演。そもそも声が良い人だが、感情が迸る芝居も素晴らしい。暗い表情は徹底的に暗く、ハイになっているときは狂気を帯びるほどの熱量で。あの衣裳の数々もしっかり着こなしている。

正直、駆け足過ぎると思う部分もあるし、ちょっと雑かな?と思う部分もないではない。しかし、ミュージカルとしてはとても魅力があるし、舞台化されたら絶対に観たい!と思わせる内容になっている(ミュージカルってほら、多少粗があったりするものじゃないですか)。少なくとも私は『ボヘミアン・ラプソディ』よりも『ロケットマン』の方がずーーーっと好きだし、何度でも観たいと思う。ミュージカルファンはぜひ観ていただきたい作品なのは間違いない!

あ、あと子役が本人に似すぎててちょっとギョッとするレベルなのでそこも見どころです。



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