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ロケットマンのKKMXのレビュー・感想・評価

ロケットマン(2019年製作の映画)
4.2
親に愛されず心に傷を負ったセクシャルマイノリティーのロックスターが、成功と引き換えに孤独に蝕まれていく…という、クリシェみたいな超王道のストーリー。

とはいえ、主人公エルトン・ジョンの内面にしっかりフォーカスした脚本は、ベタながらも誠実で胸に迫り、まんまと感動しました。


そしてなにより本作は熱い友情の物語でした。
音楽の天才でゲイのエルトンは、曲は書けるが歌詞が書けない。そこで、作詞担当のバーニーと出会い、サクセスストーリーが始まります。バーニーとの友情が、本作の軸になっていました。
このバーニーがいい奴なんですよ。エルトンははじめバーニーに恋したっぽいですが、バーニーは変に嫌悪せずしっかり線引きし、友情を大切にする態度を取ります。エルトンは傷ついたと思いますが、おそらく一時的で、彼もバーニーとの友情を大事にしていきます。
エルトンが27クラブに入らず生き残れた理由のひとつには、明らかにバーニーの存在があったでしょうね。

エルトンは成功とともに精神が荒廃していきました。エルトンは周囲に理解を求めながらも自ら扉を閉め、対話せずにひとりで痛みを抱えこみます。そのような時でも、基本的にバーニーはエルトンの扉を叩き続けました。これはキツいし、無力感も覚えるでしょう。
そして、これ以上は無理となった時も、距離は置くけど見捨てることはない。逆に言えば、バーニーはエルトンと心中しない賢さもありました。
友情も含め、人を愛し続け、そしてそれを実現させるスキルに関して、バーニーの態度は参考になるな、としみじみ思いました。


また、見当違いかもしれませんが、セクシャル『マイノリティー』の悲しみも感じました。
詳しくわからないのですが、マイノリティー(少数派)というだけあり、もしかしたら異性愛者に比べて愛し合える人と出会いづらいのかな、との感想を持ちました(間違っていたら、LGBT事情に通じている方教えて)。心が通じても異性愛者とはパートナーシップが組めない悲しみはすごく刺さります。『ボヘラプ』のフレディとメアリーにも感じましたが、ホントやるせなくて切ない。
中盤、エルトンの本質を理解してくれたっぽい音楽関係者の女性とエルトンは一瞬結婚するのですよ(作中の描写も一瞬!)。でも、すぐに別れてしまう。しかも、傷つけあってダメとかではなく、しみじみと悲しい感じで「ゴメン、ダメだったね…」みたいなテンションなのが余計悲しい!互いにセクシャリティが合えば、とてもいい関係になり得た雰囲気があったのに…
少数派の性的指向ゆえ、なかなか心身ともに愛し合える相手と出会えず、そのためエルトンは卑怯者のゲイのマネージャーと離れられずに搾取され、傷つけられ続けたのかも、と想像しました。


本作は完全なミュージカル作品でした。物語の展開場面では必ずエルトンの曲が使われ、登場人物たちが歌い踊ります。俺はエルトン弱者で『Your Song』『ピンボールの魔術師(ってフーのカバーだけど)』しか知りませんでしたが、ミュージカル好きとしてかなり楽しめました。
『ロケットマン』の孤独さには胸を揺さぶられ、『I'm still standing』のポジティヴなエネルギーには感動!後者の『今も立っている、以前より力強く』といった歌詞には感動し号泣でした!
ただ、少し画面が暗くて華やかさに欠けたのと、歌のミックスがやや小さかったように感じました。これは完全に好みの問題だと思いますが。


『ボヘラプ』の監督が撮った本作。明らかに爆上げPV映画だった『ボヘラプ』とは趣を異にする、エルトン・ジョンというひとりの人間を真摯に掘り下げる魅力的なガーエーでした。
どっちが好きか?そりゃ、人間好きとして言うまでもないでしょう!
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