マヒロ

3-4x10月のマヒロのレビュー・感想・評価

3-4x10月(1990年製作の映画)
4.5
ガソリンスタンドで働くうだつの上がらない青年・マサキは、職場でヤクザとイザコザを起こして目をつけられてしまう。困ったマサキは、所属する草野球チームの監督で元ヤクザもののタカシに相談し助けてもらうが、そこからヤクザの抗争に巻き込まれてしまい……というお話。

『その男、凶暴につき』に続く監督2作目とのことだが、話自体は真っ当なヤクザ映画だった前作と違いかなり変な話になっており、いきなりの飛ばしっぷりが笑える。
たけし軍団が大量に出ているし、独特の間やヘンテコなキャラクター設計などは明らかにコメディのノリだが、一方で唐突に訪れる暴力描写などは『その男〜』からの流れを汲んでおり、その食い合わせの悪さがシュールな空間を作り出している。タイトルからして意味不明で、ハナから観客を取り込もうとしていない尖りっぷりが格好いいし、途中で沖縄に行ったりする『ソナチネ』にも通じる夏の雰囲気など“たけし映画らしさ”もしっかり刻印されていて、芸人が片手間で映画撮ってるわけではない本気さが伝わってくる(興行的には酷かったらしいが……)。
劇伴もダンカンが歌うヘタクソなカラオケ以外は全くなく、かなり殺伐とした空気感があるが、たけし映画に関してはこれくらい無機質でヒリついていた方が面白いと思う。久石譲の曲は良いんだけどちょっと情感に溢れすぎているので…。

役者陣についても、主役の柳憂怜(この時は“小野昌彦”名義)の曖昧な存在感が、白昼夢みたいな取り止めのない作品の雰囲気にピッタリでだし、ガダルカナルタカやダンカン他たけし軍団の面々の庶民派チンピラ的な佇まいもハマり役。途中から出てくるたけしも、めちゃくちゃどうしようもない人間だが色気があって格好いい。
言ってしまえばこれ『ジョーカー』みたいな話なんだけど、やや演技にリキが入っていたホアキン・フェニックスのジョーカーより、仮設トイレでウンコしながら登場する柳憂怜の何とも言えない佇まいが内に暴力性を秘めた人間のリアルさがあって、ふとした瞬間にゾッとさせられる。
明確な理由や意味のない突発的な暴力を描いた、他の北野作品ともどこか違う奇妙な存在感のある作品で、地味ながらかなり好きな映画だった。

(2022.184)
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