わたふぁ

カール・メルツァー: スピードヤギの挑戦のわたふぁのレビュー・感想・評価

-
約3500kmのスルーハイク(踏破)を年間2000人が目指し、実際に成功する人は1割程と言われている。暑さ、寒さ、雨、岩場、高温多湿、ヘビ、クマ、蚊、ダニ、ライム病、疲労、孤独、迷い...。それらが敵となってハイカーを襲う。水と食料の配分や調達の心配に至ってはたぶんゴールする寸前まで絶えることはない。
しかし歩いていて人とすれ違うことは少なく、そこにある美しく巨大な自然を独り占めする幸せを感じ、人生観を変える体験を得る人も多い。

しかし、通常3〜6ヶ月かけて楽しむロングトレイルをマラソン以上の勢いで進み、新記録の46日間でのスルーハイクを目指すウルトラランナーがいる。名前はカール。トレイルネームはスピードヤギ。
1日目で100キロ...13日目で870キロ...16日目で1200キロ...という速さで進むので、優雅なロングトレイルとは全く別物である。

カールの挑戦はチーム戦。カールの父親も献身的なサポートをしながら近くで彼を見守っている。食事を取ったり、仮眠するための次の休憩ポイントに、息子が無事に姿を現わすかはわからない。死者が出たこともある危険な場所で、父は心配しながら待つしかない。
ある時、朝4時から夜10時まで帰りを待ったことがあるという。生きた心地がしなかった16時間。再び思い出してもその恐怖は蘇るようで、涙を浮かべて話していた。

記録を破るいうことは、今まで同じ道を歩いた誰よりも苦しみを多く乗り越えるということ。同じ道を、同じように進むのでは「一番」にはなれない。他の誰よりも、一歩でも強く前進した人に与えられる称号であり、そこに執着する価値はあるのかもしれない。

ドキュメンタリーとしての面白さには欠けるが、アパラチアン・トレイルがどんなところか、その一端を知ることが出来る作品ってあまり多くないので興味深く見た。やはりここは、一度は足を踏み入れてみたい憧れの場所。