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斬、のbutasuのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.0
時代劇の皮を被ったカルト映画。池松壮亮と蒼井優に釣られて観た人は唖然としただろうなぁ。気をつけろ、監督は塚本晋也だぞ。

勿論この二人の力は遺憾無く発揮されている。カルト的な内容をガチの実力派俳優にやらせるとこんな迫力になっちゃうんだな、と心から感心した。二人とも凄まじい演技だった。

前半は前フリなので割と退屈。主人公に剣を教えてもらって調子こいた百姓の息子がチンピラ集団に喧嘩を売る→ボコされる→主人公が病気で寝込んでいる間におっさんがそいつらをボコす→そいつらが百姓一家を殺す→「あんたが寝てる間にやられたんだから仇をとってこい」とヒロインに糾弾される→ついてくるなと言っているのについてくるヒロイン、と割とイライラする展開が続く。主人公は何も悪くないのに本当にかわいそう。

ところが中盤、この映画はもはやストーリーなんてどうでも良くなるくらいの圧倒的な迫力を出してくる。刀を口に突っ込まれガクガク震える主人公とレイプされるヒロインを交互にカットバックで見せ続けるシーンの凄まじさといったら。間違いなくあのシーンがこの映画のハイライト。直後、おっさんに腕を切り落とされたチンピラのボスがすぐに死ねずに血を流し続ける軽いゴア描写もしっかり入れ、それまでの牧歌的な時代劇の空気を急変させて一般客を置き去りにする。

そこからはもうひたすら塚本演出の真骨頂をただ観せられ続けるだけ。自暴自棄になるヒロイン、狂ったように「人が斬れるようになりたい」と繰り返す壊れた主人公、そして翌朝森を彷徨い歩く三人、からのラストに派手に舞う血しぶきとヒロインの絶叫。ものすごく好みだった。

全体的に殺陣のシーンはどれもしっかりとした迫力があり、非常にたっぷりと間をとった上でスピーディーに見せる演出は見事。チンピラ集団のリアルな不気味さ、汚さも素晴らしかった。

ただ邦画にはありがちだが、さすがにBGMや効果音に対して台詞のボリュームが小さすぎる。ちょっと極端なくらい。あと暗い場面が多いのだが、本当に真っ暗で、何が起こっているのかかなり見づらかった。せっかく俳優陣が良い演技を見せているのだから、せめて人物の表情がわかるくらいにはしてほしかった。

いわゆる「男らしさ」から一歩距離をとってきた主人公。しかし彼の中には内心強い憧れと恐れがあった。その象徴が「剣」。絶妙に性的な空気を全編に渡り漂わせることでこのあたりをしっかりと匂わせる演出は見事。最後それを乗り越えてしまった主人公の行く先を象徴するようなヒロインの絶叫で終わらせる見せ方も圧巻。

自分は楽しめたのだが、割と世間の評価は低いようで。まぁ普通の時代劇だと思って観ればそりゃそうだろうな。塚本晋也に耐性のある人以外はおすすめしない映画ですよ。
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