ノラネコの呑んで観るシネマ

斬、のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
4.7
幕末、江戸の戦いに馳せ参じようとしている、池松壮亮演じる若い浪人の物語。
手練れだが、未だ人を斬ったことのない彼は、塚本晋也自ら演じる無情な壮年の人斬りと出会い、改めて殺すことの意味を突きつけられ葛藤する。
これはある意味、「野火」の精神的続編とも言える物語だ。
遠い江戸の戦いは、最初はぼんやりとしたイメージで語られている。
主人公と共に戦いに行こうとする農民の若者は、誰と誰が戦っているのかも知らない。
しかし身近に争いが起こり、人を殺すことが現実になると、それは急速にリアリティを持って、登場人物たちの人生を絡め取ってゆくのだ。
一件温和そうで、実は人斬り大好きサイコな塚本晋也は、「野火」で描かれた兵士たちの延長線上にあり、もはや刀と一体化した人間兵器は、一線を超えてしまった者の行き着く先。
池松壮亮は、彼と同質の存在となることを迫られ、抗う。
刀を握り締めた時の、独特な音響演出も効いている。
面白いのが蒼井優のキャラクターで、ころころと言うことが変わる、一番人間らしい矛盾したキャラクター。
移ろい気味の彼女の言動が、池松壮亮と塚本晋也の運命を無意識に動かしてゆく。
殺戮の緑の海は、フィリピンのジャングルから日本の森へ。
驚くべき密度の80分だ。
ブログ記事:
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