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斬、の小のレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
4.2
黒船来航で250年続いた平和が大きく揺れ動いた江戸時代末期。侍たちは長らく使うことのなかった人殺しの道具、刀を否応なしに抜かざるを得なくなってきた。人間が壊れる危うさを、同時期に公開中の『銃』は内側から『斬、』は外側から描いているように思える。

人は人を殺すことを避けようとする。人を殺すことは自分を含む全体に害を与えることであると本能的に知っているからで、人を殺した者は、精神の健康を損ねてしまう。

以前読んだ『戦争における「人殺し」の心理学』によれば、人を殺しても狂気に追い込まれない人が2パーセント程度いる。そうした者のうち、他者への感情移入能力がない者は社会病質者である一方、感情移入能力がある者はアメコミや時代劇が描くような英雄(ヒーロー)だという。

澤村次郎左衛門(塚本晋也)は英雄気質を備えており、<ひそかに正義の戦いにあこがれている。自分の能力を正当かつ合法的に発揮する機会として、狼の出現を待ち望んでいる>牧羊犬である。

しかし、主人公の都築杢之進(池松壮亮)は卓越した剣の技量を持ちながらも、人を殺せば精神を病んでしまう98パーセントの側であり、ヒーローにはなれない。しかし、時代が大きく変化する中で、英雄になることが能力のある者の務めだと周囲から迫られるだけでなく、侍であるならば人を斬らねばならないと自分で自分を追い詰めていく。

『野火』を公開し<多くの共感を得られて、一旦は安心した>という塚本晋也監督は次のように話している。

<でも、じゃあ世の中が変わったか?というとまったく変わっていなくて、それどころかむしろどんどん悪くなっていたので、とても恐ろしくて、震えの悲鳴が自分の中で起こったんです。>
(http://intro.ne.jp/contents/2018/11/23_0001.html)

今は「平和が大きく揺れ動いた江戸時代末期」に似てきているということなのだろうか。やがて誰もが刀を手にする時代が来るのかもしれない。都築の姿はそんな起こって欲しくない将来における、大半の人の姿だろうと思う。

●物語(50%×4.0):2.00
・他人事ではない後味の悪さ。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・3人の演技がとても良しでしょ。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・雰囲気があって好き。
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