茶一郎

斬、の茶一郎のレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.7
 傑作『野火』のロングランヒット以降、『シン・ゴジラ』、スコセッシ監督作『沈黙』と、俳優としての活動が目立っていた塚本晋也監督の最新作『斬、』は時代劇版『鉄男Ⅱ』!原点回帰的一本で、やはり、あの塚本晋也が「時代劇」を撮って普通の時代劇になるはずがない、異様な時代劇です。

 塚本晋也作品の要素は、①ジェットコースター型体感映画、②粗筋がある「ヘタレ男こそ暴走すると怖いよね」映画、と非常に雑に2つに分ける事ができると思っています。 
 ①は『鉄男』や『HAZE』を代表する作品群で、都会において精神が崩壊していく過程が肉体の変容として描写される主観的な映像で構成され、塚本作品のお決まりの「都市と肉体」の関係性を強調します。『野火』は体感映画の一作ですが、精神=肉体の変容・崩壊が「都会の日常」ではなく、「戦場という非日常の中の日常」で繰り広げられるため主観と客観のバランスに優れ、結果として非常に間口の広い作品になったように思います。
 ②は『鉄男Ⅱ』、『東京フィスト』を代表し、主にヘタレ男が“やつ”(×のアイツ)的悪役によって男性性を取り戻すという物語の作品群。男性性を取り戻す際に、精神の変化と同時にやはり極端な肉体の変容を伴うのが塚本作品で、機械化『鉄男Ⅱ』、手に入れた「銃」がまるで体の一部のようになる『バレット・バレエ』などがあります。
 ①と②のバランスが良いと『東京フィスト』のような傑作が誕生しますが、本作『斬、』は②の要素が大きい作品で、物語展開含め変奏版『鉄男Ⅱ』と言えます。

 さて『斬、』、舞台となる江戸末期は、250年という長い時間安泰が続き、戦争への恐怖を忘れた人々も多くきな臭い雰囲気が漂っている。『HAZE』あたりから日本が戦争に向かっている塚本監督の恐怖が作品に現れ、『野火』で戦争をテーマにした塚本作品。やはり本作でも戦後73年の現代日本のメタファーとしての江戸末期を物語の舞台とします。

 そしてその肝心の物語は、②で言う所のヘタレ池松壮亮扮する主人公・都築がある日出会った武士・塚本晋也扮する澤村によって人の斬り方を覚えていくという展開。これは、どうしても“やつ”がヘタレ主人公を鉄男化していく『鉄男Ⅱ』を想起しました。
 特に刀を振るえず、壁に向かって自慰行為をするヘタレ主人公(本作において「刀」は男性性、男性器のメタファーとも捉えられます)は『東京フィスト』の主人公そのままで、やはりこの『斬、』は塚本初期作品の回帰作品を思い起こさせます。

 塚本作品らしくない自然の静寂、美しい自然光から、実に塚本作品らしいモチーフと刀で斬られた後の肉体変容描写まで。本作『斬、』のラストは、まるで体が機械化した『鉄男』のようにヘタレ主人公がようやく「刀」と融合。エンドロールで映る刀版「鉄男」が森をさまよう主観映像は、やはり『鉄男Ⅱ』でコンクリートの森を暴走する鉄男の主観映像と重なります。
 塚本晋也はどこまでいっても塚本晋也。いやはや時代劇版『鉄男Ⅱ』な『斬、』でした。
茶一郎

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