エミさん

斬、のエミさんのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
4.0
興奮でしばしば震えました。アクションシーンのハンディーカメラと、全体の緩やかな固定カメラと、使い分けた映像にメリハリがあって普遍の強い個性を感じ、塚本監督はとことん自主制作者なんだなぁと嬉しく思ました。

私は野武士役の中村達也さんに惚れました。見た目がきったないのに、生きるために斬ることを厭わない達観さ、強いものに挑みたいというギラギラした欲望剥き出しの雰囲気が、主人公と正反対の存在であることを表していて、対峙のアクションシーンはとても興奮しました。

舞台が江戸末期で、刀を持った武士がメインになっているので、時代劇というカテゴライズになるのでしょうが、刃物を常に持ち歩き、生死が自分の意思でどうとでもなるような、すぐ身近にあるという状況が、刀を持つ者と持たざる者という登場人物のそれぞれの立場をよく表していて、上手い設定を考えたなぁと感心しました。

一番素晴らしいと思ったのは、やっぱり音楽。石川忠さん。音効が、とにかくいい!!塚本映画と言えば、やはりこの人を抜きにしては語れません。つかを握った時に聴こえる僅かな摩擦音だったり、刀を鞘に収める時に生じる刃物が擦れる音だったり、池松壮亮さん演じる主人公の、斬ることへの恐怖や葛藤が効果音で痺れるほど伝わってきたし、野武士達のねじろが映るシーンでは、岩の天井から滴り落ちてくる雨音だったり、古銭のモチーフが風に揺れる小さな音が状況によっては不気味に感じられたり心地良かったりと、絶妙なタイミングでかかるバックグラウンド曲も素晴らしくて、流石、ずっと塚本監督とコンビを組んでいるだけはあるという貫禄すら感じました。そんな石川さんも先日旅立ってしまわれたそうで、本当に残念に思います。ご冥福を祈ります。