Osamu

斬、のOsamuのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
4.0
時は江戸時代の末期、山村の百姓の家に居候する浪人の葛藤の話。

境界線という概念を強く意識させられた。

例えば、集落に流れて来たならず者たちと村人たちとの境界線。村人たちは、自分たちから一定の距離を置いてたむろする彼らを遠目に覗き見て、出来ることなら境界線の向う側は無いものとしたいと考えている。一方、ならず者たちは全く気にしていない。

例えば、浪人都築(池松壮亮)と百姓の娘(蒼井優)との間にある境界線。惹かれ合っているように見える二人はその境界線を越えなければ触れ合うことができないのだろう。

現代を生きる我々も様々な境界線に遭遇する。村人たちのように、迷惑なものを隔てるために自ら境界線を引くこともあるだろうし、都築と娘のように、気付いたら存在する境界線と格闘することもあるだろう。

これらの境界線は、自身の捉え方次第で現れたり消えたりするのではないか。そして境界線が無い世界の方が遥かに自由なのではないか。ならず者に対する都築の振る舞いがそれを示唆している。それがこの作品の重要なメッセージのように思える。

そしてもう一つが「斬る」と「斬らない」との境界線だ。前述二つの境界線が自己と他者との間に引かれたものであるのに対して、これは自己の内側に引かれたものだという点で異なる。そして、この境界線は慎重に吟味すべきもの、あるいは容易くは越えられないものとして描かれている。その境界線を越えるということは何を意味するのか。境界線を越える決断をする時、人間の内面で何が起きているのか。それらを考えるのがこの作品を観る醍醐味だと感じた。

江戸末期の小さな農村で起こった数日間の小さな小さな物語に、現代の我々が直面する問題を詰め込んだ作品だ。
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