デカオス

ザ・ファブルのデカオスのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ファブル(2019年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

原作ファンとしては、非常に説得力を掻いた実写版になったと思う。芝居も迫力に欠けていて、原作が持つ『乾いた暴力』を監督が演出できていない。

原作で主人公は圧倒的な強さで描かれるが、代わりに回りのキャラクターの描写を丁寧で描くことで作品のリアリティーを保っていた。
今回の俳優人はどれもヤクザに見えないし、顔でキャスティングしてるとしか思えないキャストが目立っていた。

原作の今回の話小島編は『久しぶりに出所した若いヤクザ小島が、今と昔のヤクザの違いに対する憤りを理由に単身暴走し分家同士での抗争を引き起こしてしまう』という物語になっている。原作での主人公ファブルはここぞという場所でしか力を発揮しない、小島編での味噌は粗暴な男小島に対するその兄貴分海老原の葛藤というのがドラマの主軸になっていた。

今回の実写版でもそこは描かれるのだが、別に必要のない佐藤浩市演じる殺し屋組織のボスと子供時代の主人公による疑似親子的な交流の回想のシーン(原作にそんなシーンはない上に、何故か山でキャンプする親子の車のCMにしか見えない)や、子供時代の主人公が山の素晴らしさを感じた時の回想シーン(物凄いスピードで花が咲いたり、滝のような流れ星がでたりと、何かお好きな"薬"をキメたようにしか見えない)描写などがあり、主軸がズレて散漫になっていた。

原作の小島の恐ろしさは、うちに秘めている邪悪さと暴力性を強かに隠しているところにあったと思う、しかし劇中の柳楽 優弥の芝居はどちらかと言えば人を殺した後にジョーカーばりに笑ってみせたりする芝居でやっていた。
これでは原作漫画の持っている裏切りや謀略を表情をひとつ変えずに行う"悪党どもの手におえなさ"というのがなくなり、子供だましのようなものになっていたと思う。全体の悪役の芝居に言えることである。
そうならない為には感情の内側、心の部分での芝居が出来ないと駄目なのだが、今回監督はミスディレクションしているとしか思えない。

原作は非常に漫画っぽさがない画風でキャラクターの顔に実在感があった(キャラの顔がどれも似ていて見分けがつかなかったりもする)、そしてキャラクターの心理描写もセリフとして書かずにできるだけ動作や細かなセリフ、小道具などを使って見せる演出が巧みであった。
原作の読了感は非常に実写映画をみたような感覚に近かったので、今回の実写版は尚更ガッカリさせられた。

アクションの質として岡田氏のスピードはメチャクチャ早いんだが、アジアの他の素手を使った映画で観れるようなヒット感のある殺陣(実際に打撃を当ててるよう見せる技術)がないせいで、とくに集団戦において緊迫感が欠けていたのが残念だった。単純に早すぎるというのも原因なのかも知れない。
これだったら少し前の坂口拓 主演『RE:BORN』のアクションの方が、間もつくり尚且つスピードとヒット感をみせていて、緊迫感があった気がする。
何よりあれにはゼロレンジコンバットの異様さが醸し出されていた。(これもアクション以外の部分が非常に"アレなデキ"だったんだが)

非常にガッカリしたので次は岡田氏にはゼロレンジのようなフレッシュな武術を体得してもらい、細かな演出が出来る監督にやってもらいたいものである。

『ザ・コンサルタント』みたいな味わいの映画だったら良かったんだけどなぁ、ベンアフは目が死んでてファブルっぽいし。
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