TaiRa

さよならくちびるのTaiRaのレビュー・感想・評価

さよならくちびる(2019年製作の映画)
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演出等は基本的に好みだし、素晴らしい部分いっぱいあるのに肝心の音楽描写があんま乗れず。

冒頭の無言で荷物持ってアパートから車に向かうまでの歩行の見せ方とか、そういう何でもない瞬間からワクワクさせる演出力は流石だと思う。ガソリンスタンドで車から降りたハルとレオが早めの歩調で並んで歩く姿とか大好き。トイレに急いでるだけなのに。二人が車から降りて来てスタスタ歩いて行く描写が何度かあるけど全部良い。早いから。ライブまでの空き時間に街を散策する瞬間とか歩いてる場面が軒並み良い。湖畔から森林にかけてのシークエンスも画面の美しさ含め大好き。要するに音楽やってる場面以外は全部良い。ただ音楽周りの場面になると途端に何だかなぁって。時代設定が現代である事がネックなのかな。現代を舞台にしつつ現代音楽映画ではないのが気になる。2002年くらいが舞台で良かったかも。あとファンの描写がだいぶ変。JK同性カップルの描き方とか不要とは言わないがスマートではない。あんなの最後に一瞬持って来るくらいで充分伝わるし。解散ツアーの道中に回想を織り込む手法自体は良いとして、その関連性や見せる順番なんかはそこまで上手くない。出て来る場面自体は良く出来ているけど。特にハルがレオに出会って音楽に誘う瞬間から二人でギター練習するとこへポンと飛ぶとか、そういう編集の良さみたいなのはいっぱいある。あと出会ったばかりのレオが完全に「野性の少女」で言葉もロクに発しないのは面白い。これはある種の『マイ・フェア・レディ』というか、『イヴの総て』というか。生きる目的も持たず声も持たない少女を拾った話なんだよね。函館へ入った時に引き波をとらえたショットが入るけど、あれは『ザ・マスター』の引用でしょ。あれも拾った男と拾われた男の話だし。その部分もっと突き詰めた方が面白くなった気もするけど。ある意味シマも拾われたわけだし。ハルに拾われたレオとシマが逆に彼女を救済するのがひとつの命題なんだけど、その辺もうちょっとハッキリ描いちゃった方が良かったのでは。何か良い要素集まったのにもったいない気がした。
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