MasaichiYaguchi

左様ならのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

左様なら(2018年製作の映画)
3.7
人気イラストレーター・ごめんさんの短編漫画を、海辺の町を舞台に芋生悠さん主演で石橋夕帆監督が初長編作品として映画化した本作は、学生時代に何らかのことで傷付いたり、傷付けてしまったことがある人なら、その頃の“痛み”がほろ苦く蘇ってくると思う。
劇中の台詞でもあったが、その“痛み”は大人になれば些細なことや笑い話になるようなことではなく、心の何処かに棘として残っている。
地方都市の高校が舞台になっているが、映画で描かれる教室風景やクラスメイトとの交流は時に下らなく、気に置けないものなのだが、そこには目に見えない“序列”や“ルール”があったりする。
ヒロインの岸本由紀は中学からの同級生・瀬戸綾と友人として親しく交流してきたが、その綾が由紀に引っ越しを告げた翌日、突然亡くなってしまう。
この綾の突然死を切っ掛けに、由紀とクラスメイトとの関係がおかしくなって孤立していく。
由紀にしろ、亡くなった綾にしろお高くとまっているのではなく、自分の気持ちや感情を上手く表に出せなくて周囲に理解されず、時に反感を買ってしまうのだと思う。
私自身も、何か事あれば盛り上がり、そしていつの間にか冷めてしまう周囲に付いていけず、距離をおいていたので、周りはノリが悪い、協調性がないと見ていたかもしれない。
綾の突然死から表面化してきたクラスの勢力図やグルーピングの実態。
そんな喧騒を他所に、表には出さないが深い喪失感を抱えた由紀を唯一癒すのは音楽。
様々な紆余曲折の末、由紀は自分自身を、そして綾の死と向き合っていく。
この作品は、学生時代、青春時代に傷を抱えていた人にとって、一つのレクイエムを奏でているような気がする。