磔刑

ヘイト・ユー・ギブの磔刑のレビュー・感想・評価

ヘイト・ユー・ギブ(2018年製作の映画)
4.1
「夢ではなく現実」

自分が『ドリーム』がイマイチハマらなかったのは初めから主人公(黒人)側に正義ありきの状態で進む、水戸黄門方式だからだ。人種差別問題って根深いもので、一朝一夕で解決する話ではない筈なので、主人公の一喝で解決するドラマには違和感を覚える。言って聞くなら苦労はせんし、そんな単純な話なら現代に至るまで縺れない。そんな観てる者の感情の溜飲を下げる事が目的で作られてる事自体に不快感を少なからず覚える。

今作はそんな『ドリーム』と違って主人公の目線、立場が限りなくフェアで理性的に思えた。
スター(アマンドラ・ステンバーグ)は黒人でありながら、黒人同士での馴れ合いや、それを目的としたコミュニティ鬱陶く思ったり。対立する筈の白人達とのやり取りに他の黒人達に対して優越感を覚えたり。それでいながら自分が黒人であることで白人の友人や恋人との間に隔たりを感じ、居心地を悪く感じてしまったり。
と、ベタベタな差別や偏見、外的、物理的圧力ではなく、長年に渡って市民生活に浸透、変化し、最早目には見えなくなった人種差別。それを被害者、加害者側の微妙な心模様によってドラマを動かしており、非常に説得力に満ちている。加えてティーン・エイジャーを主人公に据える事によって現代の人種差別を切り取る意味、暗くなりがちな題材でありながらアクティブに物語を動かす上で非常に良い相互作用が働いている。

今作の白人警官による黒人少年の射殺は水戸黄門方式のドラマであれば例によって主人公の一喝で解決。白人達が「すいません!自分達の考え方が間違ってました!!」となるだろう。が、今作では主人公は一向にアクションを起こさない。何故なら事件が起きた事でより一層彼女の立場を複雑にしたからだ。
傍観者目線であれば亡くなった少年の為に声を上げるのが正しいだろうが、その行動によって失われる対価が確かにあることを彼女の躊躇が示しているし、それこそ勧善懲悪ではない人間対人間のドラマだなと思わせてくれる。そしてその慎重過ぎるドラマ運びがはセンシティブな題材そのものに対する最大の配慮に受け取れるし、静かな葛藤によるドラマの起伏、答えの無い問いに奔走される姿、決断に至るまでの感情の揺れがより一層力強く問題を提起している。

ただ、ラストの暴動後の展開自体は水戸黄門調で、「結局そうなるのね」って残念感は否めない。まぁ、一本の映画、1つのドラマとしてまとめるにはしょうがないかなとも思う。中盤までは非常に良かったので、それぐらいはしゃーない感で受け止めれる許容範囲内か。
それに史実を後ろ盾にしたり、現代の問題を語るのに過去の話を使う手法よりはスマートかつ、効果的に提起する本作の方がずっと意義深いものになってるのではないかと思う。


今作で現代の黒人の立場の不安定さを顕著に表す

“黒人の真似をする白人は白人としての権利を失わないが、黒人として生きる黒人には白人と同じ権利がない”

その歪な現状を一番代表するのが現代のポップ・シーンそのものなのだから、人々の意識しない差別の根深さに改めて思い知らされた。
磔刑

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