骨折り損

ヘイト・ユー・ギブの骨折り損のレビュー・感想・評価

ヘイト・ユー・ギブ(2018年製作の映画)
3.8
憎しみ合うために生まれてきた人はいない。

なのに、どうして、世界は憎しみばかり。

みんな、違いばかりが興味の中心にあって同じであることには興味がない。

そりゃ色んな意見があると思うけれど、結局人間である以上、確実に異なる点より共通点の方が多いはずなんだ。

何人だって、好きな人とキスすりゃ幸せを感じるし、大切な人が亡くなれば涙を流す。

同じようなことで人間の感情は動いている。そんなに変わらない。だから、映画は成立する。だから、物語はいとも簡単に国境を越えられる。人類の普遍性を舐めてはいけない。

15でアメリカの田舎町に越してきたアジア人の少年は、白人しか見た事がない人たちに宇宙人だと思われた。その経験は僕にとって衝撃的だった。見た目だけで、言葉を交わさずとも自分が人と違うと思われる感覚。とても歯痒かった。

だって、本当はそんなに違わないから。
クラスで遠くから僕を見るだけのあいつだって、僕と同じように親にノックしろとか家で言ってるんだ。
でも、それを僕は伝えられなかった。
「違うやつ」だと思われたまま、もうそいつに会う事はなかった。

この映画に出てくる全員が、小さな偏見をかき集めて、他の人を見ている。黒人だから銃を持ってそうだ、白人だからどうせ本気で差別反対とは思っていないだろう、全部全部その人を見て言っていない。情報から勝手に決めているだけ。

もったいないんだ。決めつけで終わるのは。めちゃくちゃ面白いやつかもしれない。めちゃくちゃ俺の痛みを分かってくれる人かもしれない。その可能性を考えたら、決めつけも少しブレーキをかけたくなってくる。

この映画では、主人公の女の子と、白人の友達は結局最後まで仲直りは出来なかった。けれど、それがこの映画の最高に憎いところだ。それを見て僕らは、少しモヤっとする。仲直りして欲しいとか、分かり合えそうなのにとか、その消化不良感こそが、この映画の希望だ。映画が終わって、その気持ちがあるという事は、現実での自分を省みる事ができる。「私も、こうやってもったいない事してるのかな」って。

そう感じられる人は多いと信じている。
それさえあれば、世界は確実に今よりも生きやすくなる。
骨折り損

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