だいすけ

ヘイト・ユー・ギブのだいすけのレビュー・感想・評価

ヘイト・ユー・ギブ(2018年製作の映画)
4.0
人種差別をテーマにした映画は無数にあれど、本作ほど深く考えさせられる作品は多くない。差別の問題について、分かったつもりになることの危うさを感じた。結局のところ、どれだけ寄り添ったとしても黒人の苦悩を完全に理解することは不可能なのだ。

白人にも黒人にも属さない中立的な立場の人間からすると、正直なところどちらの言い分も分かる気がしてしまう。もちろん人種差別には反対だが、事件を起こした白人警官に少し同情してしまったのだ。彼だって黒人を殺したいわけではなく、危険を察知したから撃ったまでの話だと思うのだ。スターが提起した問題は、その判断がステレオタイプに支配されていることだ。しかし、ステレオタイプは人間の防衛本能に基づくシステムであり、悪意とは全く別物だ。警察や世間が黒人を軽視する対応をしたことは許されないが、撃ってしまったこと自体は責めを負うべきか分からない。だから、この二点は切り分けて考えなければならないと思う。

ただ、そう思うのはあくまで切り取られた事件の一場面しか見ていないからかもしれない。白人と黒人の間には、歴史的な因縁があって、憎しみの連鎖は現在まで脈々と続いている。その文脈上で事件を捉えれば、到底許すことはできないのだろう。外野の自分からすると、本作の黒人たちの言動はときに非合理に思えるのだが、もはや理屈ではなく、憎しみという悪感情によって突き動かされている。

そして、事件の原因となった「黒人は危険」というステレオタイプもまた、白人の視点で歴史的に形成されたものだと考えられる。白人は黒人を差別してきた。だから黒人は白人を憎んでいる。したがって、白人は黒人の「仕返し」を恐れることになる。さらに、白人優位の社会構造は、黒人の生活水準を下げ、結果的に黒人は犯罪に手を染めやすくなる。そして、黒人の犯罪はマスコミによって偏向報道される。黒人はますます白人を憎み、白人はますます黒人を恐れるようになる。要するに、憎しみの連鎖がステレオタイプの種なのだ。ステレオタイプを排除することは容易ではないが、スターのように勇気を振り絞って憎しみの連鎖を断つことや、クリスのように立場を異にする者を理解する努力をすることによってのみ、理想的な世界を実現する一歩を踏み出すことができると思う。
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