Nakanishi

凪待ちのNakanishiのネタバレレビュー・内容・結末

凪待ち(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

世間からは見えづらい個人やその周囲が抱える問題を描きながらも、ミステリーやバイオレンスなどいろんな要素を盛り込んだ脚本が光る作品です。

冒頭の競輪の映像を見て、白石和彌は何を撮ってもいい映像が撮れるんだなあとしみじみ実感。とにかく映画を撮るのがうまいなあと改めて思いました。カメラワークはちょっと酔いましたが、引き込む力は流石です。

特筆すべきは上述のとおり脚本。中々先が読めない展開でした。少々急ハンドルな部分はありましたが、意外性は充分です。

最後までどうなるかわからない、という点で映画もギャンブルも一緒なんですよね。たまたま自分は映画でスリルを味わえる感覚を持っていただけで、もしかしたら競輪になっていたかもしれない。映画だって当たりはずれはあったりするわけで…それが裏テーマになっているような気がしました。

それと「津波で全部ダメになった人」と「ギャンブルで全部ダメにした人」の話なんだな、とも捉えました。津波でダメになっても、ギャンブルでダメになっても、それでも生きているから生きなくちゃいけない。津波のおかげで新しい海になった、という台詞もありました。なぜ勝美が郁男にあんなにやさしいのか途中までわかりませんでしたが、「急にパートナーを亡くした」という点に自身を重ね合わせたからなのではないかと僕は解釈しました。オチとしては郁男も新しい海に旅立つことになり、その辺はちょっと綺麗にまとまり過ぎてるかなと思いましたが、それが霞むぐらい良い演出が多数。犯行の動機を直接的に説明しなかったり、亜弓の元夫との絶妙な関係性(良いわけではないが最悪ではない)など、伏線的に散りばめたものをしっかり回収しており、さらにそれを映像や演技で描いていた点は素晴らしいと思いました。

かなり重たい脚本なので、見るタイミングや気分はよく考えた方がいい作品ではありますが、白石和彌監督の他作品が好きなら(特に「ひとよ」など)間違いないと思います。映画館で見ればよかったです!
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