Monsieurおむすび

凪待ちのMonsieurおむすびのネタバレレビュー・内容・結末

凪待ち(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

試写会にて。

震災からの復興が進む石巻を舞台に繰り広げられる白石監督史上最も優しい人間ドラマ。

幸せも不幸もほんの些細なことの積み重ねなのに、それに気づくのはいつだって不幸が訪れた後かもしれない。そんな喪失と再生の物語。。。

一見、善良な郁男がギャンブルの事となると見境がなくなる。カメラが傾く演出が表すように、彼の中で世界がひっくり返る。。。

何もない、ろくでもない郁男が唯一持っているものは亜弓と美波との繋がりだけ。けれど亜弓の死によって郁男は思い知らされる。大切なものを失う事の怖さ、小さな希望すら奪われる絶望感を。
それから逃げるように酒に溺れ、自暴自棄になり、ギャンブルに依存する。
そんな郁男を気にかけ、信頼を寄せる人もいる。
しかし、あまりにも停滞した人生にいたなら、差し出された救いの手を握りしめる事も躊躇われる。上昇する勇気が持てない。人はそれほどまでに弱い。
郁男に限らず人は誰でも良い面も悪い面もあり、それは人生でも同じことが言えるかもしれない。

あの日、津波が全てをのみ込んだ。紛れも無い悲劇だけれど、人が汚し続けた海を津波が浄化していったことも紛れも無い事実。
喪失が人の心を壊していく反面、喪失により人が優しさを持ち寄り結びつける。
再生は必ずしも元通りにすることではなく、決して元通りにならないものを抱えながら再び生きていくこと。
淡い優しさと切なさに満ちた作品だった。

物語の本筋とは別に、登場人物が生きてきたであろう其々の人生を感じさせるキャストの深みのある演技は素晴らしく見応えがあった。

非道さや愚かさは監督のこれまでの作品でも散々描かれてきたのに、本作のそれは全くベクトルと質感が違う。
監督の物事へのまなざしと視点の多角性に驚かされた。
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