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凪待ちのasumiのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
4.8
ギャンブル依存症の郁男
恋人を殺されたのに改心できないろくでなし
その男の人生の一端に関わる人々
大切なものが手のひらからこぼれ落ちていく
それは一瞬で唐突
失ったものの大切さ
取り返すことのできない現実
自分のろくでもない様が痛いほど情けない
とことん堕ちることで罪悪感から逃れようとする
自分の愚かさと弱さのせいで誰かを傷つけるのが怖い

そこには純粋さが見える

人はとても弱い だから優しい
郁男だけでなくあの港町で暮らす人々は
誰もが背中合わせの弱さと優しさを持っていて
喪失を抱いて生きている人々

あの日、海に飲み込まれた営みが
たしかにあって
静かに海の底に重なっている
海を隠す防潮堤 積み重なっているコンクリート塀
現実は変わらない 帰ってこない
その事実を突き付けられる

1日1日と過ごしていく日々
安っぽい希望も安易な救いもない
残された者は 生きていく
日々を生きている

郁夫に関わる人々の優しさと強さは
あの日を抱えて生きている人たちの
姿そのものなんだろう
日々の積み重ねの先に明日が見えてほしいと願う
時に荒く時に穏やかな海が
心に広がっていくような映画でした



白石監督自身もおっしゃってたけど
これまでの監督らしい激しい描写は少なく
人間の機微が丁寧に描かれています

でも激しい描写が少ないとはいえ
物足りないわけではなく
量ではなく質で見せられた感覚

降りかかる不条理 理不尽 裏切り 偏見
それらに怒り そして狂気 絶望 虚無

覇気のない表情
目の奥の濃い闇
叫び暴れる香取慎吾の全身から薫ってくる

そこには“アイドル”という言葉は全く浮かばない
阪本順治監督作『人類資金』でも社会派の作品の中で
“アイドル”は消していたけど
今作はそれよりも、もっと良かったと感じたし
私はこういう香取慎吾さんの姿が見れて
驚きと嬉しさがありました。

脇を固める役者たちも素晴らしいです。
恋人・亜弓の父を演じる吉田健さん。
この人の存在が映画にどれだけの
深みをもたらしたことか。
同じく麿赤児さん、不破万作さんといった
状況劇場出身の面々と
音尾琢真さんやリリー・フランキーさんらの存在感で
物語にリアリティと説得力が増していく。
亜弓の娘・美波を演じた恒松祐里ちゃんも
とてもいい。
可憐さと美しさが混じる中に儚さがあり
懸命に生きていこうとする姿が輝いている。


キャスティングに至ったタイミングや
石巻を舞台にしたこと
そこで“家族”の物語を撮ったこと
全てのことが必然だったと感じる作品でした。

色目なしに観てほしい。
6月28日公開。
公開したら また劇場に観にいこう。
asumi

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