さかな

凪待ちのさかなのネタバレレビュー・内容・結末

凪待ち(2019年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

傑作です。私は石巻のとなりの沿岸部の町で被災し、石巻から逃げてきた人の話を避難所で夜通し聞いたりしていた。だから、8年目の今の石巻を本気で誠実に撮ってくれたことに感動している。生き残ったものが生きていくということをしっかり見てくれたようで嬉しい。
沿岸部の人間は、あんなことがあっても海を悪く思えないもので、それがセリフになっていたり、福島の除染作業の話が出てきたり、ふとした会話に現実が反映されている。
放射能に関連したいじめ問題も。
豊かではない暮らしも。
東北の被災者の震災後の生活には、理屈じゃ説明できない感情というか何かがうごめいているものだが、この作品ではそれをお涙頂戴にはしておらず、妖気のような内面のうめきが郁男に見事に体現されていたと思う。
それは私がとっくに向き合うことを放棄した
うめきだった。表現できないし、したら傷つくだけだし、きっと何かを失うから。
香取慎吾の演技は圧巻で、普通には理解しがたいレベルの喪失感、絶望感や全てへのあきらめがギャンブルや暴力に向かう狂気となる様を見事に表現しており、失ってしまったものをさらに際立たせていた。
理屈では理解できないし共感もできないであろうあのクズ野郎の生理が、本能が、人間としての核が渦となってうごめいていた。
そんな風に本当は私もあれぐらい暴れたいのかもしれない。だから、本当にこの作品に出会えて良かった。放棄した感情を取り戻せるかもしれないから。
まだ向きあえない部分が多いけれど、それでも生きていくことをこうして理解して見てくれている人達がいることがわかったことに、
涙が抑えられない。白石監督他みなさん、ありがとう。
さかな

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