badhabit

凪待ちのbadhabitのネタバレレビュー・内容・結末

凪待ち(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

荒波がすべてをさらっていったら、波が引くまでじっと耐えて、また凪を待つ。

口数の少ない郁男は、一見寡黙で思慮深い男に見える。でもその顔に貼り付いた軽薄な薄笑いで観客はすぐに気付く。自分に自信がなくて卑屈で幼稚なだけの男だ。
おれはクズだ、大馬鹿野郎だ。そう吐き捨てながら自分を変えることの出来ない郁男に対して観客が感じる苛立ちは、そのまま郁男自身の苛立ちだった。
大切な人を平気で裏切り続けた自分を、誰よりも郁男自身が一番信じることが出来ないのだ。
それでも何度も差し伸べられる優しさに涙を流す郁男の、自分自身への情けなさや不甲斐なさが痛いほどわかって、一緒に涙を流してしまった。
金は気持ちそのものではないけど、そこに期待や希望を託すことは出来る。
どれだけ泥濘の底を這いつくばっても、郁男にはまだ未来がある。
海はまたいずれ凪ぐ。微かな光を手探りで見つけるような、再生の物語だった。

奥さんに供えようとしたビールを結局自分が飲んでしまうところ、郁男のどうしようもなさが出ていてすごく好きなシーンだな。
香取慎吾の声はリーヤの頃のままだな…と思い序盤気になってしまったが、話が進むにつれその郁男の鬱屈とした生き方とのアンバランスさが良いアクセントになっていたな。大きい子供と評されているが、まさしく。声をあげて泣くシーンはまさに、生まれ直したばかりの赤ん坊のようだった。
エンドロールの石巻の海底の様子は、容赦なく生活を奪われた形跡が痛々しく残っていて恐ろしかった。
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