嗚呼、素晴らしき屑映画。
ヒモである郁夫が、妻を殺害されることにより、元々のギャンブル中毒が加速し自分も残された家族も崩壊しかけていく話。
この映画の中で何度涙ぐんだことか。途中涙ぐむだけでなく年甲斐もなく垂れ流してしまった。
郁夫は根は優しく、身内に愛していて、人から好かれ、仕事もできる人間なのだが、少しだけ社会性が低い。他人にも自分にも甘い。郁夫の身内に対する話し方は眠そうで優しい。
普段優しいちょっと癒しキャラのようなポジションを確立しておくと、少しくらいダメでも周りからまぁあいつだからなと大目に見てもらえることがある。ヒモとか人たらしのスキルのひとつである。
屑が自己嫌悪して負のスパイラルにハマっていく様子が鮮明に描かれていた。
妻の喪失をキッカケに立て直そうと思っていたものが崩れていく。
俺はダメな人間だと郁夫が直接口にしたり書き出したりする場面も多く、会話の後や、ギャンブルに熱中したり、喧嘩に発展する場面でもことが終わったあとに死んだ方がいいダメな人間だという雰囲気が顔や動きから漏れ出ている。
本当に腐って祭り会場でチンピラ相手に暴れ回るシーンは完全なる自傷で、涙無しに見られない。中年同士で抱き合い「大丈夫だから」と励まされる場面は絵面が情けなさすぎて最早感動の域。(その後の場面展開が地獄となるのがまた良い)また、演じてる香取慎吾がキ×ガイおっさん呼ばわりされてるのも味わいがある。
そこまで落ちる?落ちるのか~ってところまで郁夫が落ちてくれるので楽しいといったらない。
香取慎吾の演技と雰囲気が素晴らしかった。どっしりした体つきに汚れた服に死んだ目をして、のらりくらりと話す様子は、アイドルとは真逆の下級労働者であった。また郁夫に粘着する警察、地元民、ヤクザなどのネチネチした演技も素晴らしかった。白石監督の描く悪人と暴力には安定感がある。
ヤクザやチンピラとの関わりの中で郁夫が破壊を繰り返し、義父や義理の娘とは距離を取ろうとする。家族が優しすぎて気持ち悪くなってしまった。郁夫もおそらくそうであり、優しさに感謝しつつひいているのである。
人の優しさがなぜ怖いのかというと、自分のようなクズに人が優しくする意味がわからない、見返りはできない、そして死にたいと思ってるからです。だから優しくしてくれるような人間のことはどんどん避けていくスタイル。
潮の匂いを感じる湿った少し退廃した町の様子、舞台が東北大震災被災後の町ということで、侘しさと回復を感じた。街を取り囲む海はどこまでも広く、最後は優しく凪いでいた。