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凪待ちのKHのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
4.0
最近一人の友人をこの映画の沼に落とし込んだので、改めてちょっと真剣に感想を書いてみたいと思います。

もともとこの『凪待ち』とゆう作品に興味を持ったきっかけとしては、同じ白石監督作品の『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『虎狼の血』が良作だったのもありますが、

この主人公の香取慎吾という役者を今作に起用した部分が自分の中でとても大きいです。

香取慎吾と言う役者はドラマではかなりの演技力を持っている実力派の役者にも関わらず、

その実、映画に関しては『こち亀』や『西遊記』『ハットリくん』などの
所謂、「扮装モノ」が多く、
正直あまり良作というよりは、ある種ファンへのネタ的な位置づけになっており、
また香取慎吾というキャラクターを我々が勝手に明るく元気な人と、創り上げてしまった為、彼の代表作となる傑作自体は実際のところ「ない」と言う部分。

また、そんな我々が創り上げてしまった彼のイメージを全てぶっ壊して、
今作では無口で不器用な巨男という役を演じていると言う予備情報を予告で見たので、
僕の中で「これはどーあっても絶対に見たい」と思ったところにあります。

また本作の裏のテーマとしては3.11の東日本大震災で起こった
ある日突然、全てを消し去ってしまった『理不尽』というテーマがあったように思う。

またかなり緻密に計算されたシナリオのため、無口な香取慎吾が何も言わずとも、周りの人物の会話や仕草で、
彼が気は良い人物なのだが、ギャンブルに依存しており、途中何度となく見てる側にも明確にわかるくらい意図的に画面が不穏な音楽とともに傾いてくる演出、
そして、複数人が画面に写っている場面では、その中の一人にしかピントが合っていない、それが外れると別の人物にピントを合わせていくという技法が多様されており、

この人たちはセリフの上では互いを思い合っているにもかかわらず、
きっと心では全くピントが合っていないと言うことを暗示させる手法を数多く使用している。

そこへ、中盤とある大事件から事態はさらにダウナーなゾーンへ入っていく、

先に述べた裏テーマである『理不尽』がこれへの布石のようにも思えるが、さらにその理不尽に解をなすように、
途中、香取慎吾は幾度となくやり直せるチャンスが訪れるのだが、そこへ違った形で何度も『理不尽』が訪れる。
そして再び不穏な音楽とともに画面が傾いていく。
作中では何度も
「人は人生の中で何度でもやり直しがきく」
と伝えているが、それは同時に人は落ちるとこまで落ちてしまうのも簡単だよ。
という要素も孕んでいる事がわかる作りに
かなり強いメッセージが伝わってくる作品だと感じましたが、

終盤、とある登場人物が一列に横並びしているシーンでは
逆に全員にピントが合っている。というところで、ちゃんと心まで繋がりあえた瞬間が訪れる。

本当にダメ人間を演じているにもかかわらず、香取慎吾という役者がもともと備えている華のような雰囲気が見てる側を全く飽きさせないなど、
思いつくところをあげればキリがないほどにこの『凪待ち』という作品は香取慎吾にとっては間違いなく代表作にして、最高傑作だったと僕は思いました。

あえて他の登場人物や、ネタバレを伏せて書けるとしたらこの辺で終わっておきます。
休日に見ると絶対にライフ削られる内容の邦画ですが、ラストのエンドロールで流れる映像含め、
間違いなくオススメです。
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