まず始めに言いたいのは、
「誰が殺したか」
「なぜ殺したか」
というキャッチコピーが完全に的を射ていないどころか、本質からミスリードしてしまっているということ。
この映画の主眼はそこではない。本作はミステリーではなく、あくまでギャンブル依存症の男・郁男の転落を軸にした人間ドラマだと思う。
やっと手に入れかけた「普通の暮らし」も、度重なる不幸が奪い去っていく。
そして、本作の一番おもしろい所は、転落していく原因が、他人のせい50%、自分のせい50%という配分になっているところ。
殺人事件は郁男のせいではない。容疑者にされたのも彼のせいではない。会社を解雇されたのだって濡れ衣だ。
しかし、その不幸に負けてギャンブルに堕ちていくのは、やはり郁男のせいなのだ。人の優しさまで、ギャンブルで溶かしてしまったのは彼なのだ。
同情できる部分、できない部分、常に半々の不安定なバランスにすることで、次にどちらに傾くか予測できないスリルを生んでいると思う。
人間のいやらしい業を見せつつ、その中で生きていかなければならないそれぞれの現実を、終始きな臭い演出で描いた白石監督の良作だ。
公開:2019年
監督:白石和彌(『凶悪』『孤狼の血』)
出演:香取慎吾