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ドクター・スリープのMachiのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
4.4
幼いころ恐ろしい体験に見舞われたダニーは、その後40年経ってもどこか恐怖に怯える生活を続けていた。名作ホラー『シャイニング』のその後を描いた物語。

『シャイニング』は言わずと知れたスタンリー・キューブリック監督の名作だが、この『シャイニング』というタイトルが、少年ダニーのもつ特殊な能力"かがやき"を指していることはあまり知られていないのかもしれない。

スティーヴン・キングの原作では、強い"かがやき"を持つ少年と、その"かがやき"を狙う悪霊という明確なホラージャンルの物語があるのだが、キューブリック版ではこの異能や悪霊という要素を人間の狂気に落とし込んで表現しているため、アート系ホラーやサイコスリラーとして評価されているように思われる。(ちなみに人物像も原作小説と映画で全く違う。ジャック・ニコルソン扮するジャックは映画版では狂気のサイコだが、原作だと……)

本作はキング本人が執筆したシャイニング続編小説『ドクタースリープ』の映像化であり、前作通り"かがやき"や悪霊に焦点を当てた作品であるため、キューブリック版の続きとして鑑賞すると、多少面食らうかもしれない。
単体で観れなくもないが、前作を観ておいた方が間違いなく楽しめるだろう。できれば原作の情報だけでも調べておくと、本作におけるダニーのアル中の意味するところや終盤の対話シーンの理解が深まると思う。

さて、本作のバランス感覚は素晴らしい。
キューブリック版、キング版それぞれのファンへの配慮が随所に感じられる。オーバールックホテルの完璧な再現や不安を煽る存在感ある音楽、見覚えのあるカットはキューブリック版へのリスペクトが強く感じられるし、物語の展開や人物像、全編に漂うカルト感、ラストまでの流れはすごくスティーヴン・キングを感じる。

大きな力を持つがゆえ、ひっそりと堕落した人生を送るダニーが同等以上の能力を持つ少女と出会い、自らの"かがやき"を取り戻していく過程。彼の人となり、葛藤、選択が自然に描かれていて、キング作品の映像化として非常に満足度が高い。

そもそもキング作品は人物の内面描写が濃く、ホラー作家でありながら、人間の感情の機微を(しつこいほど)丁寧に描く作風である。ホラーや超常要素に振り切らず、ヒューマンドラマとしての要素を意識し、しっかり両立させているあたりに監督の腕を感じた。
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