垂直落下式サミング

ドクター・スリープの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
4.5
ピンチになったら、取り乱したり命乞いするタイプの悪役が好きです。チョーシこいていたら不意に逆襲されてアワアワと狼狽えはじめる姿が、なかなか愛くるしい悪党たちの女頭目レベッカ・ファーガソン。
一旦ドヤらせてから、わからせる。上げて下げる物語のドSっぷりがたまらない。余裕ぶっこいてる人が足元を掬われて、精神的にも肉体的にもぐちゃぐちゃになる様子がいちばん萌えるし興奮しますね(歪み)
性癖開示はさておき、子供のシャイニングをむさぼる魔物たちは、死を先延ばしにしようと他者の命を奪う悪党だ。長寿という生物的な欲望を満たすために、文字通り他人を食い物にする彼等のあり様は醜悪そのもの。野球少年が殺されるところ、ムリすぎた。そんなおこないは到底許されるべきではない。
現実の世の中にある卑劣な犯罪行為ってのは、口論になって人を殴っちゃいましたとか、借金があるから強盗しちゃいましたとか、適当な女を拐ってまわしちゃいましたとか、そういったしょうもないものばっかり。コントロールできないチンケな欲望を解消するのは、弱いものからの搾取という当たり前。本作の放浪の魔物たちは、至極真っ当な悪の在り方に殉じている。
テッド・バンディみたいな一部の例外を除いて、実際の犯罪の大半は、理性のはたらかないバカたちが起こしたもの。金銭のため、欲望を満たすため、その他にも、カッとなっちゃったとか、ムシャクシャしててとか、酒が入って気が強くなってたとか、そんくらいの理由しかない。もちろん、それは格好よくない。
でも創作物のなかでは、レクター博士とかジョーカーとか吉良吉影とか、そういうインテリ好みする超越的な悪党が幅を利かせすぎて、それの類似品であふれている。もう飽きた。今は、このくらい卑近な下劣さがちょうどよく感じる。
本作がやってのけたのは、キングが納得するような怪奇的な要素を大切にしながら、尚且つあのキューブリック版『シャイニング』の続編でもあるというはなれ業。
おばけ映画としての楽しさを持続させつつも、後半の見せ場では他を寄せ付けないような画面の潔癖さを強調してくる。キューブリックを踏襲し、小説版の捨てられた超能力バトル要素の部分もちゃんと忘れない。
そして、正義についてのはなしでもある。自分がそうしてもらったように、今度は女の子を助けるのじゃ。わかったよ、クローザースのおっちゃん。毒をもって毒を制す。お前のシャイニングが、怪しく輝く。
「シャイニング」なる力の設定は、シャーマンキングの巫力とハンターハンターの念能力を同じものとして定義しているような感じ。幽霊や呪いのようなスピリチュアルなものと、人の能力を超えた超常的な現象を引き起こす力、これを同じ才能として扱っている。こういったバトル漫画に親しんできた世代なので、これが思いのほか馴染みやすかった。
数年前に合ったきりの気難しい人と再会したら、なんだか今度は気安い雰囲気で会話が弾んだ、みたいな、ちょっと嬉しい映画だった。