荒野の狼

ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。の荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
和歌山県の太地町立くじらの博物館を舞台にした2018年の映画。矢野聖人、武田梨奈、岡本玲の3人がメインのキャストで、3人とも撮影時27歳と同年齢だが、役柄のためもあってか武田が他のふたりに比べ大人びたように見える。鶴見辰吾が館長役でしっかりと脇を固める。本作は117分の映画で主演の矢野は発達障害のようなものがある設定なのだが、具体的な病名などは明らかにされていない(こうした設定が必要であったかは疑問。映画の中で矢野に対して「バカ」というセリフが連発されているのもセンシティブな問題)。武田は出演時間の長さからいっても実質の主演といってよい。本作に出演するまで泳げなかったという話だが、本作ではクジラの上に乗るサーフィンまで披露(私は同博物館に2020年に訪れたが、クジラのショーでは、サーフィンは行われておらず、映画のパフォーマンスのほうがやや高度)。武田がクジラサーフィンを夕陽を背景に訓練する姿は美しく感動的ですらある。他にアクションシーンは、矢野にハイキックを繰り出す場面がある。強い個性の役どころだが、水中水族館のシーンでは、背筋を真っ直ぐにしている武田が、ドーム状のガラスには背中を丸めた姿に写っており内面の弱さが反映した名場面になっている。和歌山県出身の岡本は学芸員役でクジラの楽しいダンスを披露するが、このダンスは2020年の同館のショーでは見られなかった。
本作では、反捕鯨団体との問題なども取り上げられており、くじらの博物館が、クジラを単なる見世物ではなく、くじらへの愛情・理解とリスペクトに基づいた運営をしている点が描かれているのは重要。同館は、訪れてみると映画以上に素晴らしく、クジラの生態、捕鯨の歴史の展示は充実、イルカとクジラのショーは、ショーの前に、イルカとクジラの理解のための説明がなされるなど、従来の動物ショーにはない内容になっている。映画のファンには、捕鯨の賛否に関わらず訪れて欲しい博物館である。なお、本館は、歴史的にも仮面ライダー1号・2号のダブルライダーが和歌山県ロケを行ったゆかりの場所のひとつでもある(シオマネキング、モスキラスの回)。同館は、かつてはシャチのショーがあったり、ラッコの飼育をしていたりしていたが、時代の趨勢にあわせて対応しているのは好感がもてる。将来的には、クジラやイルカのショーの内容の見直しなどもあり得るが、館員の真摯な姿勢から、よりよい方向性の運営がなされていくのではと期待している。なお、本作では、他に、主人公たちが新宮市に食事に行ったり、那智の滝が紹介されているが、世界遺産の熊野は、くじら博物館に近く、観光映画としての側面もある。
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