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海獣の子供のmotoietchikaのレビュー・感想・評価

海獣の子供(2018年製作の映画)
4.8
最初の数カットで引き込まれて、気づいた頃にはもう五感全部もってかれて海の中をひたすら連れ回された挙げ句、浜辺に打ち上げられていたような。
茫然自失。

とにかく画面の情報量が凄まじく、多用されているらしいCGも作画との区別がつかないほどの出来。後半なんてほとんど湯浅政明監督の『マインド・ゲーム』。海水のうねりから人物の日常芝居までとにかく丁寧で繊細で、観終えるとなんだか私たちの世界までもが新しくなったように思える。

水たまりの光の反射、膝すりむいて駆ける不揃いな足音、あらゆる日常の機微に世界の成り立ちを見た。

そういった、「世界や生命はいかにして在るのか」「何処へ還るのか」という壮大なテーマをはらみつつも、あくまでこれは〈私〉対〈世界〉のディスコミュニケーションの物語としてまとめられていて、物語としてもきれいだ。
そしてその〈私〉の意識や感覚が海の中で拡散してその輪郭をいったん失い、そこから地上に上がったときに再び意識を取り戻す――その体験そのものがコミュニケーションにおいて要になる、ということ。人類補完計画やってからまた個を取り戻すことで人はやっと他者と関係することができるのかもしれない。

触れる教室の机にすらぎこちなさを感じるような、不器用なひとたちの生。海を泳ぐとき、息継ぎのために顔を上げることも惜しまれるような美しい映画だった。
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