きざにいちゃん

マチネの終わりにのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

マチネの終わりに(2019年製作の映画)
3.8
「過去は変わらないものではない。これから創る未来が遡洄して過去をも変えうる(それが幸福にせよ不幸にせよ)」

「正しくあることは幸福を得る為に、手段として否定されてもいいという人間のエゴとどう向き合うか」

このあたりがこの作品の主題だろう。

原作は、大人の切ない恋愛小説としてベストセラーになった。三島由紀夫の系譜と言われる平野啓一郎がそんなチャラいものは書かないだろうと思っていたが、未だ未読のままだ。涙腺攻撃型の、安っぽいメロドラマになっているのではないかと不安だったが、意外としっとりした美しいタッチで以ってなかなか深みもある作品になっていて、さほど期待していなかっただけに意外な質の高さに驚いた。

「そんなことですれ違ったりするだろうか」という舞台装置としてのリアリティの甘さはありながらも、テーマの追求は逸れることなくしっかり描かれている。冒頭で述べた、紙一重で幸福にも不幸にも転じる「未来だけでなく、変えられる(変わってしまう)過去」を幸不幸、激しく揺らしながらも肯定的な眼差しを以って描いているのは好感が持てる。

吹き替えを極力減らして福山雅治が挑戦したクラシックギターも見所のひとつ。そして何より、劇伴としてのクラシックギターの調べが映像と溶け合って美しい。