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マチネの終わりにのellieのネタバレレビュー・内容・結末

マチネの終わりに(2019年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

美しく、上質な大人の恋愛映画。
但し平野さんの原作で脳内補完がされ過ぎてたせいもあってか、「思った通りのイメージ」を越えたものがなかったのが残念だった。

西谷監督はさすが福山雅治の映しかたを完璧に心得ていて、どの角度から見てもいささか尊大で同じくらいピュアな蒔野を上手に魅せていた。幸福の硬貨の美しい調べやギターを爪弾く指先、各々のキーとなる空間での二人の青い衣装、くすんだ町の色とインテリアと、随所に質のよい空気が加わり、映画の精度を上げている。

無論、映画の尺を考えれば、丁寧に描けない箇所は多少は致し方ない。それでも洋子に頼まれて蒔野が部屋に赴きギターを弾くシーンでジャリーラが憔悴している理由を変えてしまったことや、洋子と父ソリッチとの関係性にいささか薄さを感じてしまったこと、そして何より、蒔野が弾けなくなった間の塗炭の苦しみがもう少し肉薄してくるともっともっとよかったなあと思う。
知性で恋に落ちた二人にリアルさが加わるのは、まさにこの三つの部分が不可欠だったろうと思うから。


恋とは本来身勝手なもので、渦中の人は誰もが唯一の主人公だ。蒔野しかり、洋子しかり、また、三谷しかり。三谷の行動は賛否あるだろうし、私は個人的には許容しない。でも、肉の恋でもシチュエーションの恋でも知性の恋でもない場所から蒔野を支え続けた三谷こそ、たとえ独りよがりであったとしても、彼女のなかには三人(リチャードを含めれば四人)のなかで最も愛に近いものを持っていたのかもしれない。

最後、二人の長い苦しい恋が愛に変わるのかは私は知らない。けれど、出逢いと再会が夜ではなくマチネ(昼講演)の終わりであることが、何かの未来を示唆しているような気もする。
「過去は未来によって、その形を変えて行く」のだから。
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