のん

マチネの終わりにののんのレビュー・感想・評価

マチネの終わりに(2019年製作の映画)
3.7
髭の似合わない福山雅治



小説『マチネの終わりに』を読み終えた私はいたく感銘を受けて、そのまま映画館へと向かった。

結果的に読み終えたばかりの原作と比較しながら鑑賞することになってしまったが、映画は原作の良いところを殺している面と、原作にはない良さを出している面の両方があり、私はこの作品を手放しで絶賛することも、メタクソにけなすこともできない。


原作はあくまで原作であり、映画は別物、というのが私の信条なので、原作と比べてどうこう、というのはあまり言いたくないのだが、それでもこの映画は小説の方が遥かに面白い。


人生でたった3度会っただけの男女が、誰よりも深い愛で結ばれる。この一見不可解な男女の関係をそれぞれの心情描写で細かく描写していくことで、説得力を持たせているのが原作で、映画版には当然そうした描写が割愛されているので、予告編でも印象的だった「地球のどこかで死んだって聞いたら、僕も死ぬよ。」という台詞もどこか空虚なものに思えてしまう。


それでも、この台詞を福山雅治が言っていることでギリギリの説得力が生まれているとは思う。こんなストレートな台詞を私が発していたら一発でお巡りさんにしょっぴかれてしまうだろう。


時代設定を原作からずらしたのも地味に良くない効果を生んでいる。リーマンショック〜東日本大震災という物語の背景として重要な役割を果たす出来事が丸々使われていないので、洋子のフィアンセであるリチャード(日系アメリカ人だったの!?)のキャラ設定もぼやけてしまっているように感じた。

伊勢谷友介は芸達者なので、おそらく原作の人物の意図をよく理解しているのだとは思うが、洋子に対しての感情をあの一言で片付けてしまうのは原作未読者に酷く不親切な作りだと思う。


一番の問題は石田ゆり子演じる洋子の父親、ソリッチとの会話を丸々カットしたこと。原作終盤でのハイライトシーンであり、「未来から過去を変えることができる」という作品の核心部分に通ずる場面なので、母親との会話でサラッと消化されてしまったのが非常に違和感があった。



逆に良い点は、作品において周りを大混乱に陥れた三谷早苗の存在が原作よりも深く描写されているところ。

演じた桜井ユキの演技の幅もあり、三谷を一側面ではなく色んな側面から見られる重層的なキャラクターとして描くことに成功している。
あえて、終盤では原作と全く真逆の台詞を言わせてみたり、なかなかに攻めていると感じた。


印象的なテーマソング「幸福の金貨」や、今どき珍しいフィルム撮影など映画ならではの要素もあり、楽しめた部分も多数。

小説より先に映画を観るべきだったかなあ。
のん

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