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アルキメデスの大戦のhikarouchのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
2.5
この映画作った人、業務における見積もりのこと何も分かってないよね?仕事で見積もりを取ったことがある人なら、みんな違和感あると思うんだけど、どうなんだろう。

こんな前代未聞の巨大戦艦に限らず、テーラーメイドの製造物の見積もりを第三者が正確に再現することなど絶対に不可能なのよ。それは、この作品で言うところの「価格表」なんてものが存在しないから。まず部品にしたって、こんなのほとんど特注品に決まってる。特注品に定価があるわけなかろうに。そして仮に定価のある定番品だけで作っていたとしても、それを定価で売るなんてことは絶対にないのよ。だから発注者は、サプライヤーに「見積もり」を取るんだよ。いくらで売ってくれるの?って。見積もりってそういうことだよ。
そこにさらに莫大な人件費も掛かってくる。こんなの決まった金額があるわけないじゃない。ネゴで決まるんだよ。

だから、見積もりの不正を暴くとしたら、初めから、最後に菅田将暉がやったようなコストモデルを数式化した概算アプローチしかあり得ないんだよ。そしてそのアプローチなら、勘の良い人がやれば1,2日でできるよ多分。

そもそも見積もりの不正を暴くのと、見積もりを完全再現することは別でしょ。例えば、鉄の原材料費だけで1億超えるんだけど?とか部分的に不備を指摘するだけで、見積もりの不正確性は十分指摘できる。これ明らかにオカシイからちゃんと見積もり根拠出して?って言えば良い訳よね。
さらにそもそも、この意思決定会議自体がすでに買収されてるよねこれ。正攻法では何を言ってもダメで、意思決定者である小林克也をどうこちらに取り込むかっていう政治工作こそが必要なアクションだったんじゃないの?若者の頑張りでどうにかなる問題じゃないでしょうに。こういう所にお花畑思想が漏れ出ているのが、期せずして当時の日本人の思考とシンクロしてたり。そんなシンクロ要らんけど。

そういうことがずっと気になって、菅田将暉が一生懸命採寸したり設計図を起こしている間中、「キミは一体何をしているのーーーー???」「五十六仕事しろーーーー!!」って思ってしまった。

菅田将暉が最後に出した解法にしても、変数が「鉄の総量」のみって。。それで万円の単位まで正確に当たる(つまり精度は99.99%以上)ってのも荒唐無稽過ぎるんだよな。誤差20%くらいに収まるって話なら分からなくもないんだけどさ。。

数学の天才だからできた、みたいなのも気持ち悪い。見積もりに必要なのは、計算スキルなんかじゃなくて、いかに戦艦のコスト構造を数理モデルに落とし込むかというところであり、それには並外れた論理力と発想力、造船や機械構造の理論知識が必要なんだよね。(ロジックさえ立ててしまえば、後の計算は柄本佑にでもやらせとけば良いんだよ。)手当たり次第に近場のもののサイズを測りたくなるような視野の狭い男にこれがあるとは思えないんだよな。
1人のヒーローが全て解決!なんて幼稚な話ではなく、さまざまな分野のスペシャリストがチーム力で解決!って話の方がずっと納得感も面白味もあったと思う。

細かいけど、あの山本五十六が「せん断力」を知らないわけないだろうってのも引っかかったし、最後戦艦大和が「日本の身代わりとして必要だから作るんだ」、って詭弁みたいなのもなんか気持ち悪かったな。


と、ボロクソに文句を言いつつ、映画全体として駄作とは思わない。映像も演技もセットも衣装も頑張っている。見積もり云々が気にならない人にとっては結構楽しく見れる映画なんだろうというのも分かる。けど、個人的にはこのお話の根幹のところが全く同意できなかったので、乗れませんでした。
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